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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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だから僕は振り返られない

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行為に関しては、痛かったのと、泣きじゃくったのと、目がはれたのと、次の日熱が出たのしか覚えていない。なにも、覚えていないのに等しいのだ。こんなのはずるい。受け入れたものをなかったことにするのは、とても。
「お願いします」
「わっ」
耳に飛び込んできた声に肩が跳ね上がる。お願いします。それは声の主、ロシウが幾度も言った言葉だ。
顔を上げて。はっとする。自分がいるのは総司令室で、座っているのはふかふかの総司令専用椅子、目の前で顔をしかめているのは大人の顔のロシウである。仮眠室でも、ベッドに座っているのでも、まだ幼いロシウがいるのでもない。
心臓がばくばくと鳴っている。また、だ。四年経ってなお、彼とのことがときたまふっと頭を過ぎってはシモンをずるいと罵った。どうして覚えてくれていないのだと、詰め寄ってくる。
不審な顔をしているロシウにあはは、と笑ってみせ、さらに不審がられてしまう。
「なんですか、そんなに驚いてみたりごまかし笑いをしてみたり。ぼんやりしてないではやく片付けてもらえますか。まだあるんですから」
「いや、ごめん、幻聴かと思ってて本物だった」
「……意味がわかりません」
「ごめんごめん、やる、やるよ。するよ、サインを」
追求を避けるようにして、一体何枚あるのかも推測できない紙に向かう。はやく終わらせたい気持ちのせいで焦ってで手元がおぼつかない。ロシウの視線を感じる。しっかりしないと。自分に言い聞かせる。
「……シモンさん」
反射的にロシウを仰ぎ見た。総司令でない、一個人を称するほうの呼び方を、ロシウはまったくしなくなった。最近では私用だろうがなんだろうが、シモンのことは総司令、という。シモンさんと、呼ばれたのは、あのときがまさしく最後。
「なに……んっ!」
少ない面積から隙間を見出して、ロシウは机に手をついていた。真っ直ぐに見つめられて、呆気に取られているあいだに唇を盗られた。一瞬のことに、頭が追いつかず拒めなかったのだ。手にはペンを持っているし、少しでも机が動けば書類タワーが倒壊するかもしれない。
なんのつもりなのか問いただすのを許すのさえロシウ次第だ。