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児戯にひとしき

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 そんなことがあってから時も過ぎた、ある日のことだ。
 家康は何の他意もなく、ただこの男と出会ってからずっと気にかかっていたことを三成に尋ねた。
「三成。お前、初めて秀吉公に会った時には何を思ったんだ?」
 問いかけられた相手は眉間に皺を寄せて家康をねめつけた。
「なぜそんなことを貴様に言わねばならん」
「そう睨むな、知りたいんだ。……一体どれほどの感銘を受けた?さぞ、印象的だったのだろう」
 家康が真摯な表情で静かに問うと、三成は、じっと家康を見つめた後に、なぜか瞳を彷徨わせた。いつも鋭く相手を見遣る三成には珍しいことに、家康がちょっと眼を瞠ると、三成はそのまま不意にぽつりと言った。
「……覚えていない」
「え」
 予想外の返答に家康がさらに眼を丸くすると、三成はどこともしれぬ空中を見つめながら、呟くように言った。
「思考というものが存在しなかった」

 そして絶句した家康がその意味を問う前に、三成がふと瞬きをした。遠い場所へ意識を飛ばしているようだった眼に確かな理性が戻ると同時に、三成は手に持った刀を家康の首元に突き付ける。家康は聞いたばかりの言葉に動揺したまま、息を呑んだ。
「……三成、どうし」
「貴様に、」
 三成は一度、大きく息を吐いた。
「貴様に話す謂れはない」
 それは初めの問いに対する答えであったのか、それともこれから家康が問いかけるであろうことに対する答えであったのか。
 三成は最後に鋭い一瞥をくれたあと、足早に去って行った。
 

 仮に。
 仮にだが、今や天下のほとんどを掌握しようという軍勢の権力者が望んだ場合には。
 たかが一人の人間が、本来いなかった場所に「いた」という証拠を作り上げることなど容易いのではないか。
 

 そうと思い至った瞬間、いつかのように背筋が冷えた。
 脳裏に浮かぶのは、麗しいとすら言える軍師の密やかな笑みだ。
 鈴が鳴るような軽やかな笑い声を聴いた気がした。


作品名:児戯にひとしき 作家名:karo