こんなG8会議は嫌だ
「遅れてすみません」
ある日珍しく日本が遅れて会議場に着くと、なぜかドイツがそれが当たり前のような顔をして一心不乱に空豆を剥いていて、空豆? と日本が首を傾げていると、剥き終わった殻で遊んでいたイタリアがチャオ、とひらひら手を上げた。
「どうかなさったんですか? これ」
「フランス兄ちゃんが今日なんか持ち込んで来たんだよー、あっちに麻袋で」
どっしりした袋が確かに横たわっていて、一応フランスは書類は眺めてはいたが、袋の中に片手を突っ込んでいて、たまに取り出したりもしている。痛んでいる分でも取り分けているのだろうか、いやしかし、なぜ空豆、もとい農作物がいきなり会議の場に。
「イギリスが家庭菜園で、まあ、成功っつーか成功しすぎて失敗というか?」
あと同じものが2袋とちょっとあるよー、とフランスが笑った。
イギリスはイギリスで、つん、とした顔でフランスの書類に注文を付けている。
案外こういう態度を取っている時はフランスに実際になにか落ち度があった場合で、どちらに非があるわけでもないとか、イギリスに少々分が悪いような時に手が出やすい(本当にイギリスが悪い場合は全力で話を流す、懸命です)。
「はあ、でもなぜ、フランスさんがお持ちになるんでしょうか」
「俺が利用してやんないと空豆が可哀想じゃない」
そしてなぜ、ドイツがあんなに熱心にそれを剥いているんだろう、ということを考えないでもないのだが、あれはこう、嵌まったというか、そういうことなのだろうか。この手の作業は好きな者は確かにとことん好きなものではあるのだが。
(ぷちぷち潰しなども、始めると止まりませんしねぇ。)
と、日本は自身の地味な経験を思い出しはしたが口からは出さず、まあ、自分が遅れるなんてことになったから会議が始められなかったのかもな、と大人しく席に着く。
「それでね、日本くんはこの空豆どう料理するのがいいと思う?」
「とりあえず、先の投票で僅差でフランスさんが調理することになったんですけども」
なぜか両隣がロシアとカナダで、珍しくもステレオで話し掛けられてしまったのだが、斜向かいのアメリカは、露骨に豆とか興味なーい、という感じでだらっと机に垂れていた。
「もー、アメリカは、寒い国では貴重なタンパク源なんだからね?」
「別にウチでも食べるけどさー、チリ・ビーンズみたいのとか。でも空豆嫌い、ぱさぱさしてるし、味ないし」
「フランスさんの豆料理は美味しいよ!」
確かに。フランスの料理は材料が影も形も留めていないことが多く、主にスープだのソースだのテリーヌだのの中に入っていれば正直今更食感もなにもないというか、イモ類に関しては一部意見の合わないところがあるのだが(なんで潰すんですか的な意味で)、豆類に関しては味がよく出るフランスに一日の長があるような気は。
いやいやいや、G8って経済会議じゃないですか。
日本が来ないから遊んでいた、というより、日本が来る前にすでに空豆会議がある程度進行していたというか、しかもこれから料理の検討に入るらしいし、まともに働いてるのがイギリスくらい、とも思ったのだが、そもそもこの空豆を栽培したのがイギリスというとことになると果たして無関係としていいのかどうかもよくわからず。
「それにしても、最初から量を調整して作られれば良かったと思うんですが」
「んー? イギリス、プランターで作ってたよ、確か5鉢くらいだっけ?」
「もうちょっと多くなかった? ある程度駄目になる分想定してって言ってたし」
いやいやいやいや、なぜそれで麻袋3袋分。
「わかりました、きっと、イギリスさんのお宅の妖精が」
「いやそれ幻覚だし、日本まで言い出さないでよ。なんかフツーにプランターから溢れて庭の一角占領してた、イギリス、美観が主目的だと剪定とかきちんとやるけど、そうでないと甘やかすよね」
「まあ、収穫量が増えるのはいいことだと思うけど・・・」
ねえ? と二人してよく似た顔を見合わせているのが、なんか家族っぽくて可愛らしい。
よくよく聞いてみたら、フランスとイギリスの会話も、なんというか肥料がどうの水がどうの立地が、とかそんな内容で。俺がちゃんとやったって言ったじゃん、とかなんとなくフランスが拗ねているというのはこう、ひょっとしてお庭一緒に管理しているんですか? と日本は首を傾げたがどうもそれはおかしくないだろうか。
だってこの二人、一緒にいるといつも取っ組み合いか口喧嘩か言い合いだし。
一番大人しい状態でイギリスがフランスを無視しているか、フランスがイギリスに押さえ付けられているという辺りまでしか思い浮かばないのだが(どうもなにか微妙に均衡がおかしいような気は)。
「意外と仲いいよ、意外とっていうか、趣味一部被ってるよね」
「でも意見は合わないけどねー」
アメリカが言って、なぜかカナダでなくロシアが合いの手を入れる。まあ、そんなのは現在進行形というか、見ればわかるのだが。
「まあ、確かにいつものように殴り合いには進展しておられませんが」
ただ、テーブルの下で蹴ってないだろうか、イギリス。というか、なんでこの流れでイギリスが蹴るんだろうか、どちらに責任があるにしろなんだか理不尽な。
「イギリス、フランス以外には足は出さないよ、手は出ることあるっけ?」
「抓ったりとかはないでもないかなぁ、ちょっと痛い」
君らはないんだよね? とロシアが聞くとカナダがぶんぶんと頭を振る。
「あと、フランスは手だろうが足だろうがイギリス以外にはほぼ出ない、足踏んだりとかはあるけどね、うんまあ」
ひょっとしてアメリカがされたんだろうか、と日本は考えるが口には出さない。
意外とここは地味な対決が(アメリカが絡んでいるのになぜ目立たないのかというと、フランスのせいなんだろうか、と考えても答えが出ない)(フランスも派手だし)。
「つまり二人は仲がいいんだよ」
「・・・そう、かもしれません」
「日本っ?! それで納得しちゃ駄目だよーっ」
「いやいやいやいやいや、我が国には、“喧嘩するほど仲が良い”ということわざがありまして、なんかもう、一緒にさせられて喧嘩してるんならともかく自主的に一緒にいらしてその上で喧嘩なんてもう私、理解不能としか申せません」
そ、そっちのことわざからだったらいいかな? とカナダが首を傾げる。
−−−−−
※ところでカナダさん→日本の呼び方って呼び捨てかしら、さん付けかしら。
ある日珍しく日本が遅れて会議場に着くと、なぜかドイツがそれが当たり前のような顔をして一心不乱に空豆を剥いていて、空豆? と日本が首を傾げていると、剥き終わった殻で遊んでいたイタリアがチャオ、とひらひら手を上げた。
「どうかなさったんですか? これ」
「フランス兄ちゃんが今日なんか持ち込んで来たんだよー、あっちに麻袋で」
どっしりした袋が確かに横たわっていて、一応フランスは書類は眺めてはいたが、袋の中に片手を突っ込んでいて、たまに取り出したりもしている。痛んでいる分でも取り分けているのだろうか、いやしかし、なぜ空豆、もとい農作物がいきなり会議の場に。
「イギリスが家庭菜園で、まあ、成功っつーか成功しすぎて失敗というか?」
あと同じものが2袋とちょっとあるよー、とフランスが笑った。
イギリスはイギリスで、つん、とした顔でフランスの書類に注文を付けている。
案外こういう態度を取っている時はフランスに実際になにか落ち度があった場合で、どちらに非があるわけでもないとか、イギリスに少々分が悪いような時に手が出やすい(本当にイギリスが悪い場合は全力で話を流す、懸命です)。
「はあ、でもなぜ、フランスさんがお持ちになるんでしょうか」
「俺が利用してやんないと空豆が可哀想じゃない」
そしてなぜ、ドイツがあんなに熱心にそれを剥いているんだろう、ということを考えないでもないのだが、あれはこう、嵌まったというか、そういうことなのだろうか。この手の作業は好きな者は確かにとことん好きなものではあるのだが。
(ぷちぷち潰しなども、始めると止まりませんしねぇ。)
と、日本は自身の地味な経験を思い出しはしたが口からは出さず、まあ、自分が遅れるなんてことになったから会議が始められなかったのかもな、と大人しく席に着く。
「それでね、日本くんはこの空豆どう料理するのがいいと思う?」
「とりあえず、先の投票で僅差でフランスさんが調理することになったんですけども」
なぜか両隣がロシアとカナダで、珍しくもステレオで話し掛けられてしまったのだが、斜向かいのアメリカは、露骨に豆とか興味なーい、という感じでだらっと机に垂れていた。
「もー、アメリカは、寒い国では貴重なタンパク源なんだからね?」
「別にウチでも食べるけどさー、チリ・ビーンズみたいのとか。でも空豆嫌い、ぱさぱさしてるし、味ないし」
「フランスさんの豆料理は美味しいよ!」
確かに。フランスの料理は材料が影も形も留めていないことが多く、主にスープだのソースだのテリーヌだのの中に入っていれば正直今更食感もなにもないというか、イモ類に関しては一部意見の合わないところがあるのだが(なんで潰すんですか的な意味で)、豆類に関しては味がよく出るフランスに一日の長があるような気は。
いやいやいや、G8って経済会議じゃないですか。
日本が来ないから遊んでいた、というより、日本が来る前にすでに空豆会議がある程度進行していたというか、しかもこれから料理の検討に入るらしいし、まともに働いてるのがイギリスくらい、とも思ったのだが、そもそもこの空豆を栽培したのがイギリスというとことになると果たして無関係としていいのかどうかもよくわからず。
「それにしても、最初から量を調整して作られれば良かったと思うんですが」
「んー? イギリス、プランターで作ってたよ、確か5鉢くらいだっけ?」
「もうちょっと多くなかった? ある程度駄目になる分想定してって言ってたし」
いやいやいやいや、なぜそれで麻袋3袋分。
「わかりました、きっと、イギリスさんのお宅の妖精が」
「いやそれ幻覚だし、日本まで言い出さないでよ。なんかフツーにプランターから溢れて庭の一角占領してた、イギリス、美観が主目的だと剪定とかきちんとやるけど、そうでないと甘やかすよね」
「まあ、収穫量が増えるのはいいことだと思うけど・・・」
ねえ? と二人してよく似た顔を見合わせているのが、なんか家族っぽくて可愛らしい。
よくよく聞いてみたら、フランスとイギリスの会話も、なんというか肥料がどうの水がどうの立地が、とかそんな内容で。俺がちゃんとやったって言ったじゃん、とかなんとなくフランスが拗ねているというのはこう、ひょっとしてお庭一緒に管理しているんですか? と日本は首を傾げたがどうもそれはおかしくないだろうか。
だってこの二人、一緒にいるといつも取っ組み合いか口喧嘩か言い合いだし。
一番大人しい状態でイギリスがフランスを無視しているか、フランスがイギリスに押さえ付けられているという辺りまでしか思い浮かばないのだが(どうもなにか微妙に均衡がおかしいような気は)。
「意外と仲いいよ、意外とっていうか、趣味一部被ってるよね」
「でも意見は合わないけどねー」
アメリカが言って、なぜかカナダでなくロシアが合いの手を入れる。まあ、そんなのは現在進行形というか、見ればわかるのだが。
「まあ、確かにいつものように殴り合いには進展しておられませんが」
ただ、テーブルの下で蹴ってないだろうか、イギリス。というか、なんでこの流れでイギリスが蹴るんだろうか、どちらに責任があるにしろなんだか理不尽な。
「イギリス、フランス以外には足は出さないよ、手は出ることあるっけ?」
「抓ったりとかはないでもないかなぁ、ちょっと痛い」
君らはないんだよね? とロシアが聞くとカナダがぶんぶんと頭を振る。
「あと、フランスは手だろうが足だろうがイギリス以外にはほぼ出ない、足踏んだりとかはあるけどね、うんまあ」
ひょっとしてアメリカがされたんだろうか、と日本は考えるが口には出さない。
意外とここは地味な対決が(アメリカが絡んでいるのになぜ目立たないのかというと、フランスのせいなんだろうか、と考えても答えが出ない)(フランスも派手だし)。
「つまり二人は仲がいいんだよ」
「・・・そう、かもしれません」
「日本っ?! それで納得しちゃ駄目だよーっ」
「いやいやいやいやいや、我が国には、“喧嘩するほど仲が良い”ということわざがありまして、なんかもう、一緒にさせられて喧嘩してるんならともかく自主的に一緒にいらしてその上で喧嘩なんてもう私、理解不能としか申せません」
そ、そっちのことわざからだったらいいかな? とカナダが首を傾げる。
−−−−−
※ところでカナダさん→日本の呼び方って呼び捨てかしら、さん付けかしら。
作品名:こんなG8会議は嫌だ 作家名:紅夜(こうや)