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久住@ついった厨
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悲しみ連鎖

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日妹視点/黒船来航






 浦賀に黒い船がやってきたそうです。異人がこの国に開国を求めているそうです。兄様と私はまだ、閉じ籠った部屋から出ていません。
 そっとしておいてくれればいいのに。この国は、日の本の国は、貴方たちと交わることなど望んでいないのだから。
 けれど、嫌だ、と撥ね除けることは出来ないでしょう。上司たちは慌てふためいて、正面な判断が可能であるようには見えません。あぁほら、襖の外で兄様を呼んでいます。頼むから出てきてくれと。この部屋に私たちを籠らせたのは数代前の上司。この部屋から私たちを引き摺り出すのは、その血を引いた今の上司。
 兄様はこの国そのものです。私はこの国の文化です。上司に従わない訳にはいきません。
 けれど。
 そう、けれど、私たちにも個人的な感情というのはあるのです。人間と全く同じのように、とはいかなくとも、ちゃんと喜怒哀楽があるのです。痛みも喜びも感じるのです。私が今感じているのは恐れでした。
 この国の文化である私は、国民の精神的なものの代表です。だから私が恐れを抱くということは、国民が恐れを抱いているということなのです。私は我知らず震えました。ぎゅうと己の体を抱き締めました。怖い。その想いがただ胸を支配していました。

「桜、」

 兄様が私をそう呼んだので、私は顔を上げます。
 いつ誰がつけたのかは分かりません。けれど私は皆に「桜」と呼ばれておりました。私は自分の名を気に入っています。兄様に呼んでもらえると、特別心が温かくなります。
 桜、それはとても綺麗な花の名です。春に可憐に咲き誇って、散った後も何とも美しい、花の名です。私はその名で呼ばれるのを気に入っています。

「私は、行きます」

 そう言って兄様は立ち上がりました。そうして外界と私たちとを隔てる襖を開けようとします。私は恐れを抑えることが出来なくて、反射的に兄様の着物の袂を掴みました。行かせてはならない気がしたのです。今兄様を行かせてしまったら、取り返しのつかないことになる気がしたのです。
 だから私は兄様を引き止めました。兄様は少し困った顔をして、私を振り返りました。私は分別のつかない幼子のような顔をしていたに違いありません。伸びてきた兄様の手が、私の頭を優しく撫でてくれました。

「兄様、」

 行かないで行かないで行かないで。怖い人のところになんて行かないで。上司の命令が何だというの。
 私たちを無理矢理この部屋に押し込めたのは上司でした。もう何年も何十年も何百年も、私は桜の咲く様を見ていません。夜空に上がる大輪の花火も、風に揺れるすすきも、降り積もった雪も。私たちをこの部屋に押し込めたのは上司なのです。上司はいつも自分の都合で私を好きなように扱います。兄様は溜め息を吐きながらもそれに従います。
 だってしょうがないのです。兄様はこの国そのものです。私はこの国の文化です。私は従わなくてもよい時が沢山ありました。けれど兄様は従わない訳にはいかなかったのです。兄様が、この国そのものであるからです。
 私は、実在するのかなんて知りませんが、運命というものを呪いました。兄様ばかりが辛い想いをさせられるのです。私はそれが辛いのです。

「桜はここにいて下さい。私は行かなければ」

 穏やかに兄様は笑います。私にはそれが無理をしているのだと分かりました。あぁその苦しみの何分の一でもいい、私が変われたらよいものを。
 兄様。菊兄様。私は怖いのです。兄様がどこか遠くへ行ってしまうような気がするのです。
 だから私は兄様を引き止めました。けれど、兄様はとうとう襖を開いてしまいました。外界と私たちとを隔てるそれを開いてしまいました。私は恐れが跳ね上がって、掴んでいた兄様の袂を、離してしまいました。
 それが過ちだったのです。それが私が犯した過ちだったのです。兄様の姿は襖の外に消えて、私の知る兄様がこの部屋に戻ってくることは、終ぞありませんでした。






何処へ行くというの
(私を置いて、何処に行ってしまうというの)
作品名:悲しみ連鎖 作家名:久住@ついった厨