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「おわっ、何だお前!!!」

サンジが島での買い物からメリー号のキッチンへと戻ると、テーブルの上に一匹の猫が居座っていた。

目がくりっとした愛らしい仔猫……などとはお世辞にも言えない、どこからどう見ても野良猫という風情のでっぷりと太った縞猫だ。丸っこい顔に、むすっと結ばれた口。眉を顰めているかのように細い両目はいかにも不機嫌といった様子。そんな貫禄たっぷりの猫が身動ぎ一つせず、どーんとテーブルに鎮座していたのだ。

「びっくりさせやがって……クソ、大事な食材を落としちまったじゃねぇか!」

驚いたあまり、小脇に抱えていた紙袋から買ってきたばかりの品が幾らかこぼれ落ちてしまっていた。サンジは慌てて紙袋をテーブルへ置いて床にしゃがみ込み、落としたビンやら何やらをかき集める。

「あー良かった、駄目になった物は無ぇみてぇだな。まったく……」

サンジは軽く溜め息を吐くと、船の住人が帰って来たにもかかわらず何ら動じる気配のない目の前の縞猫をじとりと睨みつけた。肥えた体でどっしり構えるその姿は、まるでこのキッチンの主は自分だと言わんばかりである。

「俺様のキッチンに勝手に上がり込むとはいい度胸してんじゃねぇか。三枚にオロされてぇのか? このクソ猫野郎」

―――グランドラインを航行中の麦わらの一味が本日の午前中に辿り着いたのは、争い事とは無縁の長閑で小さな島だった。ログは数時間で溜まってしまうということで、航海士によって明日の朝一番に発つ予定と今日の夜までに船に集合する約束が取り決められると、早速クルーたちはそれぞれに島の散策へと繰り出していった。

もちろんコックであるサンジも良質な食材(とナンパ目的の女性)を求めて久しぶりの陸に降り立った。が、数日後に着く予定の島がとても大きな島であるらしいこと、食糧にはまだ充分に余裕があること、更には航海士からの指示である節約を理由に今回は本格的な買い出しは行わず、珍しい品や気になった品をちょこちょこと購入しただけで市場を後にし、船番をするべくメリーへと引き返してきたのであった。

「……なぁ、お前、見たところこの島の野良猫だろ? 見知らぬ人間が近付いてきてるってのに、そんなにのんびりしてていいのかよ。そんなんで野生を生き抜いていけんのか?」

殺気たっぷりにオロすと宣告されても相変わらずじっとしたままの縞猫に、何だか妙な心配を覚えてしまったサンジはそう問いかけてみる。床に膝を付いたままなので自然とテーブルの上に乗った猫を見上げる形になっていたが、やけに尊大そうな猫はサンジの問いには鳴き声一つ返さずに細い両目で彼の顔を見下ろすだけだった。

「しっかしふてぶてしい野郎だなぁ、テメェ。あ、もしかしてアレか、縄張りのいざこざとかで島の野良猫連中と喧嘩になって追い回されて、そんでこの船に逃げてきたのか? お前、見るからに融通のきかなそうな頑固者タイプだもんな。でもまぁ図体もデカいし根性もありそうだし、なんとか上手いことやっていけよ。な?」

元々独り言の多い性質でもあるサンジは、無言の猫を相手に勝手に納得して勝手に話を進め、最終的には温かいエールを送った。―――しかしまぁ、この縞猫が島からやって来たという部分だけは確かだろう。現在、メリー号はこの島の廃れた港の桟橋にこっそりと横付けして停泊されているため、猫が一匹船に飛び移ってキッチンに忍び込むのもそう難しいことではない(この太った縞猫にそのような敏捷さがあるかは些か疑問だったが)。サンジが船番を代わるために帰ってくるまでは狙撃手が一人で船に残っていたはずだが、どうやら彼は猫の存在には気付かなかったようである。

「……ん?」

不機嫌そうな猫の顔を何の気なしに見上げていたサンジは、不意に首を傾げた。そしてそのまま暫く黙り込んで何事かを考えていたかと思うと―――やがて、ぶっと吹き出した。

「おっ前! お前、ゾロに似てるな!!!」

あひゃひゃ、と笑いながら猫を指差してサンジは続ける。

「何かに似てるな、と思ったら! いやいや、ゾロってのはうちの剣士なんだけどよ。まぁ、あいつは筋肉バカだが太ってるってわけじゃねぇし、どっちかってぇと猫より犬だし、色だって緑だがよ……そのどっしり構えてるあたりとか、ちょっと目つきが悪くて偉そうなとことか、なぁんかそっくりなんだよなぁ。ハハ、お前に腹巻まいてあいつの隣に並べてみてぇ……!大ゾロと小ゾロだな!」

笑いのツボに入ってしまったらしいサンジは、腹を抱えて盛大に笑い転げる。沈黙する野良猫を相手に大の大人が一人で大騒ぎしている光景は、かなり奇妙ではあった。若干不気味だとさえ言えるかもしれない。

「ああ、おもしれぇ……よし、お前は今日からゾロと名乗れ。俺が許可する。そして猫界の大剣豪になれ」

暫くの間笑い続けて薄っすら浮かんだ涙を拭いつつ、サンジはようやく立ち上がって先程落としてしまった品をテーブルの上へと移動させる。そもそもこの縞猫はメスだという可能性も無くは無いのだが、もはやサンジには目の前の生き物があの剣士の写し身か何かに思えて仕方なくなっていた。

「あー腹痛ぇ…………お? どうした小ゾロ?」

突然、今までびくともしなかった縞猫がのっそりと起き上がったのでサンジは声を上げた。しかしその声には何の反応も示さず、彼が言うところのゾロそっくりの猫はそのままぽてぽてと歩を進めていく。そして、今さっきサンジがテーブルの上に拾い上げた品々の所へ到達すると、くんくんとそれらの匂いを嗅ぎ始めた。

「何だ、腹減ってんのか? 確かにちょうど昼飯時か。―――さぁ、どちらがお気に召すかな? 一流コックが選んできた食材だぞ?」

ほんの数分前までは三枚にオロすと脅していたことも忘れ、サンジは猫の動向をわくわくと見守った。

縞猫はまず、農家の夫人が手作りしたというハチミツ入りの梅干しが入ったビンに鼻を近付けた。が、もちろん何の興味も示さない。隣にあるこの島名産だという菜っ葉(タカナというらしい)の漬物が入ったビンも、同じく素通り。島の漁師が美味いと勧めたシーチキンは猫ならば飛び付くはずだったが、密閉された容器に入っていたため芳しい反応は無し。磯の香りがする海苔が入れられた袋には少々興味を覗かせたが―――やはり一番顕著な反応を見せたのは、最後に鼻を近付けた包みだった。

「ハハ、バレたか。やっぱり猫と言やぁ魚だよな」

くすくすとサンジが笑う。縞猫がぴたりと体の動きを止めたのは、新鮮な鮭の切り身が幾つか入った包みの真ん前だった。テーブルに出ている品の他に、紙袋にもまだ珍しい種類のキノコだの出汁用の煮干だのが入っていたはずだが、そちらの方へは既に近寄る素振りさえ見せずに鮭の前から一歩も動こうとしない。むすっとした表情でサンジを見上げて「食わせろ」と無言で訴えてくる猫に、サンジは苦笑して答える。

「わぁかったよ。ったく、クルーは全員今日の昼飯は島で済ますってことだったから、俺は少しのんびりしようと思ってたんだけどなぁ……仕方ねぇ、これも何かの縁か。特別にランチをごちそうしてやるよ、小ゾロめ」

そう言ってにぃっと笑ってみせてから、サンジは縞猫のために手早く魚を焼く準備を始めた。
作品名:favorite 作家名:あずき