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「猫相手にゃ随分機嫌良く喋るんだなぁ、クソコック」

まったく悪びれる風もなく、コツコツと足音を響かせてゾロは部屋の中へと入ってくる。その顔にはひどく意地悪そうなにやりとした笑みが浮かべられていた。

「うっせぇ! コソコソ隠れてた奴が偉そうな口抜かしてんじゃねぇ!」

野良猫に向かってペラペラ話しかけていたのを聞かれてしまった気恥ずかしさを懸命に誤魔化しながら、サンジは仁王立ちになって剣士を睨みつける。少しだけ耳が赤くなってしまっていたが、それは致し方ないことだろう。

「あの野良猫、陸に戻ってったみてぇだぞ。話し相手がいなくなって寂しいんじゃねぇのか?」
「んなわけねぇだろ! どうせ連れてくわけにゃいかねぇんだ。つーか、どこから聞いてやがったんだテメェ」
「ああ、『お前、ゾロに似てるな』辺りから」
「がっつり聞いてんじゃねぇよ!!! 完全に盗み聞きじゃねぇか、ふざけんなマリモ!」

サンジはそれこそ猫のようにフーッと息を荒くしながらゾロに噛み付く。もっとも、どうしても反りの合わないこの二人がこのような口喧嘩を飛ばし合うのはもはや日常的茶飯事の一つではあった。照れと怒りで頭が一杯になったサンジはしれっとした顔の剣士を見て、あの小ゾロと名付けた縞猫がこいつの気配を感じて逃げていってしまったのは、もしかして同族嫌悪か何かなのでは、と勘繰ってしまう。

「ギャーギャーうるせぇなぁ。お前よりもあの猫の方が可愛気あんじゃねぇのか?」

そんな喧嘩腰の台詞を口にしながらテーブルに近付いてきたゾロは、先程までサンジが腰掛けていた椅子にどっかりと座り込んだ。それから逞しい両腕を組んで傍らに立ったサンジを見上げ、一言。

「飯」
「………………は?」

ぽかん、とした表情でサンジは聞き返す。

「だから、腹減ったから昼飯。お前はこの船のコックだろ」
「………………」

あまりの俺様な態度に、サンジは怒りを通り越してすっかり呆れてしまった。

「―――あのなぁ、今日の昼飯は皆、陸で済ませるって話になっただろ? お優しいナミさんが毎日忙しい俺の身を気遣ってくれてだな……」
「なんでもいい。買い出し、行ってきたんだろ? ここにいろいろあんじゃねぇか。大体、あいつには上機嫌で食わしてやっといて、俺相手にゃ渋るってのはどういうことだ。野良猫以下か? 俺は」
「人の話聞けよ! ったく、まるっきりワガママ言うガキじゃねぇか」

片手でビンを弄びながら拗ねたような口調で言葉を連ねるゾロに、サンジはぐるぐる眉毛を顰めて溜め息混じりに言い捨てる。が、急にピンときた顔になったかと思うと、今度はゾロを見下ろしてにやりとした笑みを広げてみせた。

「ははぁ~ん……さてはテメェ、また森の中にでも迷い込んで飯屋がある通りにまで辿り付けなかったんだろ。この迷子マリモが」
「何だとテメェ、馬鹿にしてんのか! 大体、森の中を歩いてったらちゃんと大きな通りに出たぞ? けど、だな」
「……………けど?」

それは既に充分道に迷っている状態だったのでは、とサンジは突っ込みを入れたくなったが、それよりもゾロの言葉の続きの方が気になったので先を促す。

「けど、何となく食う気がしなかったんだよ」
「な―――何!? 筋肉馬鹿のクソ剣士が、食欲不振だと……!? おいどうした、何か悩みかストレスでもあんのか? まさか、人間関係か?」

真剣な表情をしたサンジに冗談とも本気ともつかない調子で問われ、カチンときたらしいゾロは金髪頭を見上げて怒鳴り返す。

「アホか、んなわけねぇだろ! ただ、急にテメェの飯が食いたくなったから引き返してきただけだ! 何か文句あっか」
「……………あ?」

思わぬ言葉を聞かされ、サンジは再びぽかーんとした表情になって固まってしまう。そんなコックには構わず、妙に偉そうに椅子の上でフン、とふんぞり帰った剣士は更に言葉を続けた。

「安そうな飯屋も感じのいい酒屋もあったんだが、何となく気が乗らなかったもんでな。で、どうせそこらでフラフラしてるはずのお前を探してたら船に帰ってきちまって、そしたらテメェがあの猫と楽しくお喋りしてたってわけだ。ま、そういうことで俺は腹が減っている、だから何か食わせろ」

あんぐりと口を開けてゾロの顔を見下ろしていたサンジだったが、数秒経ってようやく言われている意味を理解したようだ。ひどく居心地の悪そうな表情になってゾロの顔からすいっと目を逸らすと、半ば無意識的にポケットの中から煙草とライターを取り出して落ち着かない様子で火をつけた。

「あー……あのなぁ、俺の飯なんか別にいつだって食えるだろうが。明日の朝にはこの島を出るって、聞いただろ? せっかく久しぶりの陸に降りたってのに……いや、つーかそれ以前にだな、テメェは本当に俺の都合を考えないというか、自分勝手というか何と言うか……ああクソ、仕方ねぇ野郎だぜ、まったく」

不満そうにぶつぶつと呟くサンジだったが、『テメェの飯が食いたくなったから』という一言にすっかり絆されてしまったのは明白だった。未来の大剣豪を餌付けしてしまうとは我ながらとんでもないことをした、と、サンジは煙を吐き出しながらやれやれと肩を落とす。

「こらコック、聞いてんのか」
「ああもう分かったよ、食わしてやっから。ただし、本当に簡単な物しか出さねぇぞ。俺も昼飯は島で軽く済ませてきたし……そうだな、サンドイッチか、いやそれよりも米が残ってたはずだから……」

そこまで言ってからふと、サンジの視線がテーブル上のある一点で止まった。そこにはまだ、サンジが島の市場で買ってきた品々、そして先程縞猫が嗅ぎまわしていた品々であるビンや袋が置かれたままだった。

「―――おいおい、勘弁してくれよ……」

まるで、ゾロが昼飯を求めて船へ帰ってくることを事前に予知していたかのような―――そうでなくても、無意識の内にゾロの顔を思い浮かべながら選んできたかのように感じられる食材のラインナップに、サンジは思わず苦笑混じりの溜め息を落とした。

「おい、何溜め息ついてんだよ」
「いや? あいつにゃ悪ぃけど、やっぱり態度のでけぇ飼い猫は一匹で充分だな、と思って」
「あ?」

不服そうに問い返すゾロに、サンジは珍しく穏やかな笑みを浮かべてみせることで答えた。そして吸い始めたばかりの煙草を右手で灰皿に押し付けてから、その手をそのまま緑色の頭へと持ち上げて、見た目よりも柔らかな感触の髪をゆっくりと撫でながら言った。

「お前の大好物の、おにぎりでも作ってやるよ。磯の良い香りがする海苔で巻いて、中身は農家のご夫人お手製の梅干しに、この島名産のタカナの漬物。それからシーチキンを使ってツナマヨネーズに、後は―――そう、ちょうど美味しい鮭が焼けたところだ」
作品名:favorite 作家名:あずき