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フライトレベル340

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遠くアジアまで出向いた案件が、出発前につけていた予想よりもすんな
りと片付いて家の外ではいつだって、それこそ数日おきに自らアイロン
をあてるスーツの折り目のようにぴんと張った神経が無自覚に緩んでい
た。そうでなければ説明がつけられない程に、もう何度もそれこそ半世
紀以上の昔から見ていた筈の3万フィートを幾許か超えた空の色にドイ
ツは動揺していた。





ビジネスクラスの座席は規格外と言えなくもない図体でも窮屈さを感じ
る事なく10時間以上のフライトを提供してくれていた。B5サイズのパソ
コンで今回の成果と呼べるものをなるべく多く掻き集め、誇張でない程
度に耳障り良く仕上げた報告書を作成し終えてパタンと黒のそれを閉じ
たところだった。

残すところ4時間弱。今はロシアのどの辺りだろうと本来なら各座席に1
つずつ割り振られているモニターで確認すべきところを、つい下ろして
いたブラインドを上げて窓の外へ目をやった。
質量を感じさせる雲に反射する陽光は朝焼けの色をしていた。赤味を増
した空の青。それは当然ながら濃く淡く、何種類もの紫の色彩を帯びる。
赤紫。そこから連想するのは唯ひとり。
掛け替えのない、ひとりだけだ。

心に浮かんだその姿は感情全てを振り向けたような全開の笑顔で、それ
はドイツの疲労を確かに軽減し、そしてまた彼の待つ家へと逸る気持ち
を増大させた。土産にと買い求めたコアラだの魚だの茸だのを模したス
ナックは、日本出張の時には彼が必ずするリクエスト品で、呆れた風を
装いながらいつも結局は一通り揃えて、挙句に季節限定品まで加える始
末だ。今は貨物扱いで凍えているだろう品々が、実のところ彼なりの弟
への気遣いだとドイツはもう知っていた。多忙を極める事もある出張中
に悠長に土産を選ぶ時間は約束されていない。
そんなドイツが、本当は片時だって視界から出したくない相手を広い家
に置き去りにした数日分の穴埋めに、せめて旅先から心慰める何か良き
物をと僅かなプライベートタイムを削って駆けずり回らなくてすむよう
にと彼が打った先手だった。