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フライトレベル340

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「土産忘れんなよ。全部揃えてこなきゃ門は開かないと思えよ!」
子供のような言い草で、子供のような笑顔で、毎回毎回催促する。しか
し実際には彼の言う「全部」はどれもこれも昼食を買うついでにでも揃え
られるありきたりで安価なスナックばかりなのだ。ふと通りかかったコ
ンビニでも駅のキオスクでもそれこそ空港の売店でだって。なのに大き
な袋に放るように詰められたスナックを、プロイセンは日本が誇る繊細
で的確に季節を捉えて仕上げられた美しい上生菓子を桐の箱入りで贈ら
れた時よりもずっとずっと嬉しそうに諸手をあげて喜んで受け取る。そ
こに嘘も演技も存在しない。プロイセンはそういう男だった。



玄関先の明るい笑顔をありありと頭に浮かべて、ドイツは声に出さず唇
だけで笑った。それからもう一度朝の眠たげで半分夢の淵に留まったま
まの時の彼の瞳に似た、白く霞がかった紫の空へ目をやった。
大型の国際線用旅客機は、ドイツがかつて何度も操縦しほとんど同じだ
けの高さまでテスト飛行で上がった単座式の機体のように、身体を締め
付ける様な抵抗も過大に響く空気の振れも何一つ伝わらないが、確かに
高速で移動していて、訪れたと思った朝焼けの光は既に色を変えていた。
差し込む赤が空の青に溶けて馴染んで、最終的には薄い青に落ち着く。
この高さから平行に見れば、赤紫のラインが薄青に挟まれているように
見える。徐々に青みを増していく朝焼けの名残りの紫。

ドイツがオーストリアか北欧の誰かがこんな色を持っていたと思ったフ
ァイルヒェンに近いそれを、かつて他でもないプロイセンの瞳のようだ
と評したのは胡散臭くアムールを振りまく隣人だった。貌ばかり美しい
顔まで連想して思い出したところで、先ほど抱いたほこりとした幸せな
焦燥感は飛び去り、代わりに心臓を裏側から叩かれるような動悸を伴う
焦りが宿っていた。プロイセンより更に長く生きるフランスは弟である
ドイツよりずっと多くプロイセンを知っている。何もフランスに限った
ことではなく、大抵の欧州の国々より若輩のドイツにとっては、それが
どんなに気分の悪いことであれ、今更だった。
今更だった筈なのに、とドイツは歯噛みした。