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フライトレベル340

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数十年経過して、なお褪せない黒色の感情は何気ない瞬間にぶわりと拡
がってドイツを動揺させる。
今のようにふとした瞬間、プロイセンが実はドイツの知る総てよりずっ
と多くの知らない事柄でできているのだと思い知らされる度に。
晴れない気分のままスライドさせたブラインドを着陸直前の指示が出る
まで開けずにドイツは飛行機を降り、心なしか預けた時より重く感じる
荷物をバゲージクレームから引き上げた。
このままオフとはいかない多忙の身を少し恨みながら、隣を歩く秘書官
と一言二言打ち合せていたドイツの耳に、あっと小さく秘書官が声を上
げるのが聞こえた。手元に開いた手帳に落としていた視線を上げるより
早く、ヴェスト、と弾む声が呼ぶ。

「兄さん」
「心優しいお兄様が迎えに来てやったぜ」
「それは…ありがとう、兄さん」
「おう」
これからオフィスに戻らねばならないのだがとか、ここに入るのにまた
無駄に特権行使するなんて公私混同だとかそういう小言は不粋だった。
それくらいには空気は読める。
「おかえりヴェスト、お疲れさん」
「ああ、ただいま兄さん」
「何だよお前、迷子が母親見つけたみたいな顔してんぞ」
ケセセ、と笑いながらプロイセンは左手をドイツに伸ばす。いつものよ
うに前髪をくしゃりとやられるのをやんわり手で制して、そんな顔して
ないときっぱり主張しておく。プロイセンはそうかとまるで弟の言い分
を信じてない声音で言って、代わりとばかりにドイツにハグを寄越した。
「おかえりヴェスト、お疲れさま」
耳元に注がれたさっきよりまろやかな響きと廻された腕から伝わる確か
な温度が、心の内の霧を晴らしてゆくのをドイツは確かに感じていた。
  

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