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ノーボーイズ、ノークライ

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 玄関の引き戸を後ろ手で閉めて、すぐには歩き出さなかった。否、足が動かなかった。(自分で選んだことなのに)後悔はしていない。(ただ、もうすこしだけここの空気に触れていたい)目を閉じて、息をおおきく吸いこんだ。耳の感覚が澄んで、玄関先にある木の葉が風で揺れて擦り合う音が聴こえた。まだずっと昔、三人で登って落ちて怪我をして、姉にひどく怒られた思い出のある木だった。

(ああ、)
(良かった)

ここには、たくさんのものがある。(自分のものも、自分じゃないだれかのものも)形があったりなかったりするそれらは、確かに自分という存在を形成するもののひとつだった。(忘れない)なにかを離さないように、両の手を握りしめて、足を踏み出した。

今度は、振り向かなかった。