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小林賢太郎演劇作品『ロールシャッハ』二次小説

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変化と継続と


僕たちが再会したのは、あの日から一年近く経ったとある祭りの夜だった。

「…天森、お前いつからいるんだ?」
 おそらく、持ち前の負けず嫌いを発揮して誰よりも早く来てやろうと思っていたであろう壷井さんが、唖然とした顔で僕に尋ねる。
 僕は時計台を見上げて答えた。
「えっと…だいたい5時間くらい前ですか?」
「早すぎるだろういくらなんでも!バカ野郎!」
「うわあごめんなさい!」
 その途端怒鳴られて、条件反射のようにバッと頭を下げた。
「もし遅刻したら迷惑になるしまた帰りたくなるだろうと思って早く来ました!」
 そして早くも帰りたい!
「それで待ち合わせの6時間も前に来るだなんて気が小さいにも程がある!」
「ごめんなさい!!」
「再会早々なに怒鳴りあってんの?」
 その声にはっと顔を上げると、見覚えのある金髪がこちらに歩いてくるのが見えた。
「あっ、串田くん!」
「えっ!?…あっ」
「こうなるような気はしてたんだよねー。だからちょっと早めに家出たんだけど。あ、安心してくださいよ、オレは今着いたとこっすから」
「なんで誘った奴が一番遅いんだ!バカ野郎!」
「えー? 早くても遅くても怒るのはずるくないっすか?」
 壷井さんに怒鳴られても串田くんはやたらと謝ったりしない。すごいな…僕も見習わなきゃ。
「まあ、それはおいといて。今日はオレの急な提案に乗ってくれてありがとうございます」
「別にお前に誘われなくても連絡は来てたし、どうせ社員と来るつもりだったからいいんだよ」
「僕にも連絡は来てたけど、きっと僕じゃ誰も誘えなかったと思うから…ありがとう串田くん」
「あ、いいのいいの。オレは一人で寂しく行くのが嫌なだけだし。久しぶりにここにも来たかったしさ」
 そう言って彼は、ふっと僕の後ろに目を向けた。
「? …ああ、串田くんはこの時計台広場の噴水が好きなんだっけ」
「うん。…正確には、ここにみんなで集まるのが好きなんだよ」
 噴水を眺める串田くんの目は優しく、そしてどこか大人びて見えた。
「で、どーすんだ?ここでぼーっと時間潰すのか?」
「それは…だいぶ早いっすけど、揃っちゃったし行きますか」
「うん!」
 祭りの日とはいえ、時計台広場にまで屋台が立っていたりはするわけがなくて。
 とくに待つ理由もなく、僕たちは早速祭りの会場に移動することになった。
「にしても富山さんが本当に曲芸士に転職するとはねえ」
「意外? オレは最初っからそんな気してたけどなー」
「でもあいつ、素質なさそうだったぞ。大丈夫なのか?」
「どーなんでしょ。オレらにわざわざ連絡するくらいだし、見せられる程度のものを身につけたんだと信じたいですけど」
 そこで「あっ」と串田くんが声をあげた。
「ん、なんだ?」
「あ、いや。あれからまったく会ってなかったわけだし、せっかくだから二人の近況でも聞いてみようかと思って」
「近況? んなもん相変わらずだよ。これまで通り社員と一緒にバーベキューしたりテニスしたり、楽しくやってるよ」
「…大嵐の中とか鉄のラケットとかだったりしないですよね」
「は?」
「あ、いえ、なんでもないです…」
「まあ天気予報はちゃんと確認するようになったよ」
「聞こえてたんなら聞き返さないでください!」
「文句あるのか?」「ないです!」
 相変わらず怖い、この人…
「じゃー天森は? なにか変わった?」
「え、僕?」
「どーせ相変わらず引きこもってオタクしてんだろ?」
「いえ、それが…」
 そう、今の僕はあの頃とは違うんだ。
「…もしかして?」
「実は……学校に行ってるんだ」
「なんだ、就職したんじゃないんだ…」
「えっ!? あっ、ごっ、ごめんなさい…」
 その落胆した声に、少しでも胸を張った自分が恥ずかしくなってつい謝ってしまう。
「…で、でもね、あのときに富山さんに『天森くんには慎重さが必要な作業が向いてる』みたいなことを言われたのがちょっとだけ自信になってね」
「それで学校入ったわけ?」
「うん。計算だって得意だし、もっとちゃんと勉強して、設計とか制作とか…なんか、そういう仕事してみたいって思って。ほら、ヒーローの乗るメカの設計士って考えれば、僕にもできるんじゃないかって!」
「動機が若干不純な気がするけど…そうなると天森もシロートじゃなくなるってことか…」
「まあね。串田くんの得意なセリフももう使えないよ?」
「ん、もしかして気にしてた?」
「え、あ、いや、そういうわけじゃ…」
「…なんにせよやる気が出たのはいいことだな。てことはあれだ、働くようになったら鉄に縁がある職業ってことだよな!」
「え……はい、まあ、そうなりますね…」
「じゃあそんときは壷井鉄工所をよろしく! 昔のよしみで安くしといてやっからよ!!」
「あー…はい」
「なんだよ不満があるのか!」「ないですけど!」
 ないけどせめてその頃にはもう少し丸くなっててほしいな…
「そ、それより串田くんは?」
 話を逸らそうと慌てて話題を振る。
「え、オレ?」
「君が一番変わってなきゃいけないんじゃない? ちょうど就活する頃だったでしょ」
「おお、そうだよ。人にはいろいろ言ってて、お前はどうなんだよ?」
「天森と一緒にしないでくださいよー。オレはちゃんと就職しましたよ!」
「おー!すごい!」
「職種は?」
「若者向けの雑誌の記者」
「雑誌の…記者?」
 なんだろう…デジャヴを感じる…
「ほらオレ、流行追っかけるのが好きだから。そっち方面の鼻も利く方だと思ってるし、だったらこの職業なら間違いなくオレの能力が活かせるんじゃねえかなーと思って!」
「それで、どうなんだ?」
「順調ですよ! 最近じゃ、小さいですけどコーナーを任せてもらえるようにもなったし。敏腕記者として俺の名前を耳にするようになるのもそう遠くないかもしれないっすよ?」
「途中で音をあげねーといいけどな」
「ご心配ありがとうございまーっす。ま、それはあり得ないけど…あ」
「お、見えてきたみたいだな」
 二人の言葉に視線を前に戻すと、派手な電飾と大きなテントが目前に迫っていた。
 その周りに立ち並ぶ露天の数々とたくさんの人々。その久しぶりの祭りの気配に、自然とテンションがあがる。
「きれい!」
「そうか? 去年と変わらないと思うけどな」
「毎年綺麗だと思ってるんですよいいじゃないですか別に」
「なんか言ったか?」
「なにも!」
 ぼそっと口答えしつつそれに魅入る。
 それにしてもすごいな…テントなんて、あんなに大きいのにどうやって建てるんだろう?
 もちろん理屈は知っているけど、それでも実物を目にするとやはり不思議に思えてならなかった。
「あっ!あそこで客引きしてるのってもしかして富山さん?」
「えっ!?…あっほんとだ!ピエロっぽい格好してる!」
「ぽいもなにも、今はピエロなんだろ?あの人」
「いや、ピエロと曲芸士は違うものですよ?」
「っつーかお手玉うまっ!」
 久しぶりに見た富山さんは、それはそれは楽しそうだった。服装もそこまで派手ではないものの、芸人らしくカラフルな衣装を着ている。
 その姿であれだけ下手くそだったお手玉を軽々とこなす富山さんは、何というか…すごく新鮮だった。
「富山さぁん!」