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ながさせつや
ながさせつや
novelistID. 1944
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主よ、連れ去りたまえ

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 白濁の湯から立ち上った湯煙は、視界をミルク色に染めている。
 狭いバスタブで、カズキに抱きすくめられるようにしてお風呂に入る。今までだってしてきたことだった。カズキの膝の間に座って、たわいもない話をする。その日の授業の話、次の日の予定の話、サブスタンスと遊んだことでも、ISのメンバーとしゃべったことでも、なんだっていい。
 沈黙はふやけるように浸透する。
 言葉は紡がれない。ボクは窺うようにして、カズキの顔を見上げる。揺れる視線は、ボクを見てはいないけれど、何かを探した瞳の色だった。
「なにかあったの?」
 そう聞いたところで答える男ではない。なにがあったかは分からなくても、なにかあったことは明白だ。彼―――ヒジリくん―――と、なにか。そして、そのなにか、がなにであるかもなんとなくはわかっている。知っている。それはボクも通った道筋だからだ。
「……ヒジリくんとエッチしたの?」
 見上げた視線を戻し、湯の中からカズキの手のひらをすくいあげてたずねる。カズキの長い指先に、ボクの指先を絡めるように触れる。この指先が全てを奏でる。この指先が、カズキの愛を語るのだ。だから、今、カズキがどんな顔をしているのかは知らないでいいことだった。
「したよ」
 絡めた指先が、ぎゅっと力を入れて握り返される。ちゃぷんちゃぷんと水の音が響く。やっぱり、などと嘆息することはなかったけれど、そうか、とは思った。カズキが、ヒジリくんを気に入ったのは知っていた。それに何を言うつもりもない。カズキがカズキらしく、それを良しとしているのなら。
「抱いたの? 抱かれたの?」
「抱いてもらったんだよ」
「気持ちよかった?」
「ううん」
「じゃあ痛かった?」
「うん」
 すごくね、カズキの声はやはり震えている。背中に、カズキの肌が密着する感触。ぎゅうっと、体温が交じり合うくらい抱きしめられる。でも、でもね。耳元に吐息と、熱っぽい声。
「……でも、幸せだったの?」
 恐る恐るのように問いかける。カズキの長い腕にホールドされて、リアルに、そしてダイレクトに伝わってくる。体温も情熱も、声も吐息も。
「そう、幸せだった、とても……うん、とてもね」
 それが偽りでも、小さな声でつけたされたのは、きっと慟哭だったろう。彼の中にいる彼女の影に、それでもいいと手を伸ばしたカズキの、矛盾めいた泣き声。この男が、どうして彼を陥落したのかは分からない。もしかしたら、彼女は、永遠に彼の手に入らないと、気付いたのかもしれなかった。
「しあわせなら、いいじゃない」
 抱き締められている腕に、手のひらを這わせて力を込める。うん、押し殺すような声が、背中で聞こえる。彼も、この男も、もてあました気持ちばかり抱えている。このやさしい男が、ボクの背で泣いて救われるなら、ボクは何度だってこうしてあまやかすだろう。彼が、カズキを連れ去るその日まで。