銀の光をこの手に
「貴方と、貴方が知っている『私』がどんな言葉を交わしてきたのかまでは、知る術がありません。……でもね」
クレスをじっと見つめる。彼女の瞳は僅かな輝きを見せた。
「私が知っている貴方が私にしてくれた事は、今でも憶えています。きっと貴方も同じなんですね」
クレスに寄り掛かって、彼女は目を閉じた。
クレスがもう一度彼女を抱きしめようと腕を動かす。しかし、それよりも早く、彼女が穏やかに囁いた。
「ありがとう、クレスさん」
その言葉は、光を失わない大切な宝だというように口にして、彼女は夜の闇に溶けていった。
生きてきた軸が違うからと、簡単に割り切れやしない。
何よりも最後に見せた彼女の表情は、全く知らない表情ではなかった。
そんな彼女を――ミントを救えなかった。
背後で控え目な足音が聞こえた。振り返ると、寝巻き姿のままで自室から降りてきたらしいミントが――金の髪をしたミントが居た。
「話し声が聞こえたので……こんな時間にお客様ですか?」
ちらりとクレスの背後を窺うミント。どこにも誰も居ないと判ると、クレスを見ながら首を傾げた。
目の前の彼女は長い時間を共に過ごしたミントだ。今の自分が守るべき人は、きっと彼女なのだろう。
人の手ではどうにもならない距離にいた『彼女』まで救いたいと願うのは、欲が強過ぎるだけなのか。
「ミント」
取り繕う余裕など無く歩み寄ったクレスがミントを腕に収めた。
わけがわからぬままクレスに抱きしめられたミントは思わずもがいて、顔を紅くした。
今は、ここに居る彼女に温もりがあるだけでも、尊い奇跡のように思えた。
せめて『君』に出会えた事を、感謝したい。