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神月みさか
神月みさか
novelistID. 12163
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狩人日記 ~剥ぎ取り不能な日々~

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「死ねやノミ蟲がぁぁあ!!」
「あははっ! なに言ってんのさ、死ぬのはシズちゃんでしょ!?」
「おふたりとも戦争がしたいならもっと安全な場所で……あっ!!」

 帝人の忠告は間に合わなかった。
 というよりも、ふたりに忠告することに気をとられていた所為で、この場が安全でない原因に弾丸のように突っ込んでこられる羽目になった。

 結果、帝人は軽く宙を舞った挙句に無様に地面に転がることと相成った。

「……ったぁ~……」

 痛かった。
 一瞬意識が飛んだかと思う程痛かった。
 帝人は涙目になりながら己の不手際と状況を弁えないふたりを呪った。

 とはいえ呪うだけでは生き物は死なない。『死ねや』と言い合うだけでは死なないのと同様に。

(もしもそれが有効なら、とっくにふたりともこの世にはいないだろうになぁ……)

 残念がってでもいるかのように考えながら、帝人は立ち上がって弾丸の行方を捜そうとした。
 ――が、捜すまでもなく、地獄の底から噴き出すかのような怒声が居場所を教えてくれた。

「殺す殺す殺す殺すブッ殺す!!」
「俺の帝人君に怪我させるなんて、これだからバケモノは嫌いなんだよ!!」
「ブギッ!? ブギャァアアアアア!!!!」
「あっ!! 駄目ですよおふたりとも!!」

 帝人の制止虚しく、本日の帝人の目標はふたりによって粉砕された。










「………」
「………」
「………」

 沈黙は三人分だった。
 正確にはひとりと獣人二頭分だった。

 場所はベースキャンプ。
 ギルドからの迎えの船を待つ間、地面に正座させられているオトモの獣人族二頭の前を、ハンターが無言で行き来している。
 一頭は大きな身体を精一杯縮めて恐縮しているが、もう一頭はふてぶてしくふんぞり返っている。しかし正座を崩すことがないのは、ご主人であるハンターの機嫌が最悪であることを見て取ってのことだ。

 沈黙に嫌気が差したのは、態度の大きい方の獣人族だった。

「も~っ、帝人君てば根に持つなぁ。依頼は達成したんだからそんなに怒んなくてもいいだろ?」

 オトモの獣人族の言葉に、ハンター帝人はぴくりと眉を跳ね上げた。
 ゆっくりと歩き続けていた足も、その獣人族の前で止める。

「……達成? 臨也さんはこれを達成と言うつもりですか?」
「だって、ギルドに依頼されたバケモノはしっかり倒したんだもの、お仕事は無事終了でしょ? だったらそれでいいじゃない?」
「……無事? 臨也さんはあの状態を無事と表現するつもりですか?」
「確かにさぁ、帝人君に怪我させちゃったのは悪かったけど……」
「僕のことは取り敢えず構いません。僕自身の不注意もありましたから」

 帝人はきっぱりと言い切ってから続けた。

「構うのは今回のターゲットであるドスファンゴです。おふたりのおかげで原型すら留めておらず、素材の回収すら不可能な状態じゃないですか」

 ご主人の言葉に、身体が大きな方の獣人が益々うな垂れながら口を開いた。

「……済まねえ……。帝人が吹っ飛ばされたのを見たらよ、つい頭に血ィ上っちまって……」
「そうそう、シズちゃんが悪いんだよ。アレは明らかにオーバーキルだったもんねえ!」

 もう一頭の尻馬に乗って言い立てる臨也に、帝人はぴしりと言い放った。

「確かに静雄さんもやり過ぎでしたが、臨也さんの爆弾も大きな原因ですよ。なんですか爆弾って。アイルーにでもなったつもりですか」
「あんなケモノと一緒にしないでよ。俺は獣人族っていっても、竜人族並の知性と知能を誇る種族なんだからさ。ま、帝人君が望むんなら、猫耳着けて語尾にニャを着けて話してもいいけどニャ?」
「ウザイです」
「……キモイな」
「せめて身長を今の半分にしてから使ってください、その語尾は。その外見では犯罪ですよ」
「中身が腐ってんだ、見た目だけなんとかすりゃいいってモンでもねーだろ」
「――ふたりとも、言いたい放題だねぇ」

 さすがに険悪な表情を浮かべ掛けた臨也だったが、帝人に睨み下ろされると再びとぼけた表情に戻して視線を逸らせた。

「――とにかく」

 帝人は仕切りなおすように言い置いてから、本格的に説教を始めた。

「一度や二度や三度や四度ならまだ赦さないこともありませんが、さすがに毎回毎回例外なく毎回繰り返されれば、僕でなくても堪忍袋の尾も切れようというものでしょう。――おふたりとも、一体何度同じことを繰り返して言えば理解できるんですか? おふたりの頭はチャチャブー以下ですか? ポポだってひとの言いつけに従うことぐらいできるんですよ、おふたりは草食獣以下ですか?」
「さすがにそこまで言うこと――」
「いいえ、今度と言う今度はおふたりの頭でも理解できるまで言わせて貰います。あのですね、モンスターハンターっていうのは、モンスターを狩ってギルドから報酬を貰えばそれだけでやっていける商売じゃないんですよ。店で買える装備じゃマトモなモンスターは狩れませんし、報酬素材だけじゃマトモな装備は作れません。ですからハンターには狩ったモンスターから好きに素材を剥ぎ取る権利が与えられているんです。――なのに、なのにですよ? おふたりの所為で毎回毎回毎回毎回、唯の一度も例外もなく毎回、狩ったモンスターが素材を剥ぎ取れる状態だった例がないじゃないですか!!」

 帝人はギルド公認のモンスターハンターだった。デビューして間もないが、訓練所での結果を鑑みて、腕も悪い方ではないと自負していた。
 しかし、実際の戦果は散々だった。
 初めての狩りの最中に出逢ったふたりの獣人が、オトモとしてついてくるようになってからは、まともな戦果が上がらなくなってしまった。
 クエストに失敗することこそないが、帝人的には惨敗といってもいいくらいだ。

 オトモに言葉を挟む余地さえ与えずに語気も荒く言い切った帝人は、視線も鋭く二頭を睥睨した。

「おかげでハンターランクを上げることもろくにできず、狩ることが許されるのは精々中型モンスター。けれどもその素材すら満足に手に入らないという体たらく。その原因がご自分達にあるんだということに、そろそろ気付いていただきたいところなんですが――」
「――あ、いや、わかってる。俺が悪ィ。俺とこのノミ蟲が悪ィ。帝人はいいハンターだ」
「あ、うん、帝人君は悪くないよ。悪いのはシズちゃんだよね。まあシズちゃんが存在する所為で俺も嫌々ながら戦わなきゃならなくなったりすることもあるけど」

 帝人の視線に押されて、二頭共慌てて反省の意思を示した。
 獣人族の本能だ。今ここで謝らなければ本当に捨てられることを悟ったのだ。

 帝人は二頭を見下ろすと、ぼそりと呟いた。

「――静雄さんは再考の価値あり。臨也さんは――反省の色なし」
「えっ!? ちゃんと反省してるよ俺も!! 今度からはさっさとシズちゃん殺して帝人君を守ることに専念するからさ!!」
「……√3点未満」
「なにそれ!? 点数の基準がわかんない上に未満てなに!?」
「言葉どおり、√3点にすら及ばない、という意味ですがなにか?」
「だから√3点って!?」

 今度は無視して、帝人はふたりを見まわした。