都合のいいおとこ
常磐津次郎という名の男がいる。
「端正な顔立ち」という言葉が必要以上に似合う男。という認識と、もう一つ、中学時代はとにかく恐ろしい男だった、という認識の共存。それがどちらもまごうことなき事実であるということを、京介は知っていた。
実際問題、後者に関しては人づてに聞いただけではあったが、それがあまりにも確かな情報筋であったせいか、自身が何をされたわけでもないくせに京介は途端に怯えるようになった。あんなにきれいな顔をしながら、血を見るのが好きだなんて、そんな恐ろしいことがあってたまるか! そんな風に身体を震わせながら考えていると、隣で自分の席にだらしなく座っていた政宗が言った。
「お前のダチにもそんな奴いなかったか?」
もしかしてそれは羽柴さん家の嵐士くんのことですか、と聞こうとしたその刹那、慌てて言葉を飲み込む。政宗は自分と同じぐらい美形である嵐士のことを敵視しているらしかった。政宗の、美に対するプライドが、嵐士の存在をどうしても許せないらしい。
そんな政宗がこのように遠まわしな言い方をすのはきっと、”あの”嵐士が”その”嵐士であると気付いていないからだろう。確かに、さほど詳しくない人間にとって、普段の嵐士と猟奇的な嵐士がイコールになることはない。ならばそのまま、イコールにならぬままでいてほしいと思ってしまった京介は、「いますよ、おんなじようなのが!」と応えるしかなかった。
まあ、俺には優しいですけどねえ。
「端正な顔立ち」という言葉が必要以上に似合う男。という認識と、もう一つ、中学時代はとにかく恐ろしい男だった、という認識の共存。それがどちらもまごうことなき事実であるということを、京介は知っていた。
実際問題、後者に関しては人づてに聞いただけではあったが、それがあまりにも確かな情報筋であったせいか、自身が何をされたわけでもないくせに京介は途端に怯えるようになった。あんなにきれいな顔をしながら、血を見るのが好きだなんて、そんな恐ろしいことがあってたまるか! そんな風に身体を震わせながら考えていると、隣で自分の席にだらしなく座っていた政宗が言った。
「お前のダチにもそんな奴いなかったか?」
もしかしてそれは羽柴さん家の嵐士くんのことですか、と聞こうとしたその刹那、慌てて言葉を飲み込む。政宗は自分と同じぐらい美形である嵐士のことを敵視しているらしかった。政宗の、美に対するプライドが、嵐士の存在をどうしても許せないらしい。
そんな政宗がこのように遠まわしな言い方をすのはきっと、”あの”嵐士が”その”嵐士であると気付いていないからだろう。確かに、さほど詳しくない人間にとって、普段の嵐士と猟奇的な嵐士がイコールになることはない。ならばそのまま、イコールにならぬままでいてほしいと思ってしまった京介は、「いますよ、おんなじようなのが!」と応えるしかなかった。
まあ、俺には優しいですけどねえ。