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都合のいいおとこ

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ここで一つ、気付いたことがある。もしかして、常磐津次郎という男は、京介と限りなく近い感情でありながら、しかしまったく別のそれを持っているのではないか、ということだ。恐ろしいだとか異常だとか、そういうことは抜きにして、あまりにも見当がつかなかったせいで、認識が遅れた。もしかして、という、未だ確信には近付けない、想像の範囲内の話ではある。が、しかし、それが「あり得ない」話ではない、という、明確な事実が目の前に存在しているのだ。
常磐津自身、気付いているのかどうかわからないけれど。
「なあーんだ」
「どうかした?」
「いえ、俺、常磐津先輩のこと誤解してました」
「へえ、そうなんだ」
「でも解決したんで、気にしないでください!」
京介の心は妙に晴れやかだった。明らかに勝てない相手との試合は絶対にしない、というのが信条である以上、もし感情が並列していれば一生太刀打ちは出来なかった。それが、よくよく考えてみればそうではないということ、まったくもって別の感情線がのびていることが分かったのである(勿論それが予測の領域であることを念頭に置いて、だが――殆ど確定としてしまって、構わないだろう)。
あ、そろそろ予鈴が鳴るな、と、京介の視線が、天井付近に設置されているスピーカーにうつる。そろそろ教室に戻ってもいいでしょうか、と聞こうとしたとき、京介はふと、自分の気が緩みすぎていたことに気付いた。

スピーカーから視線を戻した瞬間、なぜか先程よりよっぽど至近距離に――額と額がぶつかりそうになるほど近くに、常磐津の顔があった。ヒ、と危うく声を上げそうになるも、歯を噛みしめてなんとか耐える。いきなりどういうことなんだ、と、京介の皮膚から、ぶわり、冷や汗が噴きだした。整った顔はいつだって見知ったものだが、常磐津のそれは温度を殆ど感じさせないせいか、京介の両眼にはまた、ひどく見慣れない人形のように映っている。
常磐津が、つい先刻と同じように吐き出す言葉は、緩やかに京介の耳元に届いた。

「で、隣にいちゃいけないのはなんで?」

あ、やっぱり忘れていらっしゃらないですよねえ。
自分の最期を敏感に感じ取った京介は、政宗先輩と遊園地にいきたかったなあ、と、涙を溜めながらそっと双眸を閉じるのだった。
作品名:都合のいいおとこ 作家名:knm/lily