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「 次回、 開演予定― 未定にて 」

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    「 ―― それって、おれ、知ってるかも 」

  そういったのは、そんなものから程遠いところにいそうな少年だった。



        ――――― ※※ ―――――



 ちょうど、居合わせたから、ハボックはお気に入りの兄弟に、夕食をおごることにしたのだ。
 幸い、懐が、まだ暖かい。
 このところちょっと、女性との縁が薄れているせいもあるが、たまには、そういうのもいいなと思ったのだ。
 いつ、そう思ったんだっけ?と記憶をたぐる。
 ああ。
 
 青い空に、派手な旗。
 
 そうそう。町外れの工場あと。
 出張帰りの車を運転していたら、それが目にとびこんだ。
 
「あれ?あそこって、缶詰だかの、工場があったとこだよなあ」
 まだ街へはいる手前。ちょっと前まで牧場があったその辺りは、持ち主がそれを全て売りはらったようで、あっという間に緑の丘が掘り返されて、いくつもの工場が、立ち並ぶ場所となっていた。
 思わずの独り言に、後ろの席におわす上司は、一瞬だけ視線をながし、すぐに書類へと戻る。
「―先月だ」
 戻っても、答えが返ってきた。
 ルームミラーの中、ため息とともに上がった顔と合う。
「くだらん噂が立っただろうが。缶詰のミートに、人肉が使われていると」
「ああ!それか」
 あったあった。
 子どもが考え付いたのかというようなそんな噂が、最初、三月前あたりに湧いた。
 その噂が、『噂』と呼ぶには、出どころがあまりにもはっきりしていたので、騒ぎに拡大していったのだ。
 工場に勤めていたという『元工員』がたてたそれは、あまりにもひどいありさまを、細かい部分まで表現しつくした、ちょっと、食欲をなくしそうなもので・・・、そのせいか、あっという間に口を伝い、さらに尾ひれがつき、どこからどこまでが元の話だったかわからないほどになって、拡散してゆくと、うっぷんの溜まった、正義感の強い人々をあおり立てた。
「――何度か、しずめに出たのを忘れたか?」
 それが、先々月あたりだ。
「いえ・・・。しっかり覚えてます。が、騒ぎがあったのは、この場所じゃあ」
「ない。人々が押し寄せたのは、この工場ではなく。これの、持ち主の家だ」
 そういえば、でかい屋敷を囲む高い柵の周りに集まって、卵を投げつけたり、それをよじ登ろうとしたりで、戻ったら、顔や制服に、黄身やら足跡やらが残っていて、みんなでうめいた記憶もある。
「人肉の入手先から、赤ん坊と死人の配合の仕方。骨から肉をとる手順と着色料の合わせかたまで語られたんでは、しかたがないだろ」
「・・・・あのとき、『まったく関心もないそんなくだらない噂は知らん』って言ったわりには、すっげえこまかいっすね・・・」
「目を通した資料の内容ぐらい、覚えられんでどうする?」
「・・・まあ、それより、その跡地にこんなのあるって知ってました?」
「――わたしが知る限りは、たしかに工場主が隠れたため、先月末に、閉鎖はされたと聞いた。が、―――」
 男も、窓からむこうに見える、それに目を移す。

 青い空にはためく、オレンジ色の旗。

 いつのまにか工場も潰されて、空き地となったらしい広い敷地のど真ん中。オレンジと白の縞柄という、派手で、見たこともない大型のテントが張られている。
 そのてっぺんで、オレンジ色の布が、揺れているのだ。
「――今日は、そんなに風があったか?」
「は?いや。出るときは。・・ああ、旗、なびいてますね・・・。下のテントから、風でも流してんじゃないっすか?」
「――まあ、いい。明日、視察しに来い」
「いえっさあ」
 のん気に返事をしたそのとき、ほんの少しだけ開けていた窓から車の中へ、楽しいような淋しいような不思議なメロディーがすべりこんできた。
 車はそこを離れてゆき、それもやがて聞こえなくなる。
 急に、なんだか、誰かと会いたくなった。
 誰かって・・・誰だ?
 前に続く道を眺め考える男は、郷の家族を思い浮かべ、ちょっと、苦笑して、同僚を思い起こす。
 いや。――ちょい、ちがう、な。
 愚痴や、噂話や、女のことでは、なく。
「ああ」
「なんだ?」
「―いえ」思わず緩んだ口元を引き締めた。
 でこぼこ、な、兄弟。
 うん、そんな感じだ。




 ―――その、4日後に、でこぼこコンビがお戻りになったのだ。
 
 まあ、そんなわけだから、本当は、『ちょうど居合わせた』のではなく、そのちょうどな時を、待っていた状態かもしれない。
 ちょっと、自分らしくないか・・・。
 考えながら、向かいで気持ちよい食いっぷりを発揮して皿をあけた子どもに、いつものように留守の間に起こったおもしろい話をし、気付けば、――なぜか、自分が子どもの頃のどうでもいいような、恥ずかしい話を披露していた。
「―――う、えっと・・・・・」
 いきなり、我に返る。
「っかわいいですねえ〜。ハボック少尉にも、そんな頃があったんですねえ」
 弟は、鎧をゆらして喜んでいる。
 横の兄は、腕を組んでそんな弟を、ちら、と見てから、「いやあ。誰にでも平等に、純真な頃ってあるもんなんだな」と深くうなずいた。
「あ、あのなあ、おまえら、おれのことをどんな人間だと」
「あ、アル。この店の看板猫、オッドアイだぜ」
「え!?うそ!?」
 にぎやかな音をさせ、弟は店の外に寝ているというその猫を拝みに行った。
 許可を得て、煙草を取り出した男を、兄は再び観察し始める。
「――で?どうしたってんだよ?おれたちだけ、こんな食事メインの店に連れ出してさ。なにか、頼みごと?」
 煙草を何回か吸いつけた男は、そんな相手を見て困ったような顔をする。
 その顔が、まだ赤いのを眺めながら、エドは身構えている自分を感じた。
 この、気のいい兄貴的な男らしくない状況だ。
 なんというか、ただ、『らしくない』。
 頼みごとがあれば、こんなまわりくどいようなセッティングなどせずに、顔を合わせたその場で拝んでくるだろう。
 それに、腐っても軍人。
 いつもどこか、何かを隠していると思わせるものを、この飄々とした男も持っているはずなのに、さっきまでのあの様子は何だ?
 この男の家族との、ちょっとごたついたやり取りとか、幼い頃の恋の話など、なにも、包み隠さず――。
「・・・わりい・・・。なんか、どうでもいいようなガキの頃の話なんかして・・・」
「・・いや、べつに・・」
「・・・アル・・無理して聞いてなかったか?」
「・・・平気だよ・・・」
 垂れた眼が、窓の外にむけられ、暗い中で店内からの灯りを受ける、金属の背を眺めた。
 この男は、意外と繊細な気遣いをみせるのを知っている。きっと、自分の幼い頃の幸せな話が、こちらを傷つけたんじゃないかと、心配しているのだ。
 わりい。と再度つぶやき、煙草を灰皿へ押し付けると、片手で顔を拭った。
「――べつに、頼みごとはねえんだ。・・・ただ、なんとなく、おまえらと、飯でもゆっくり、なんて思いついたから」
「おれたちと?」
「いや、べつに!わざわざこんな話するために、おまえらと。って思ったわけじゃなくて、その、なんつーか・・・ああ!なんか、おれ!ほんっとどーしょーもねえなあ!」