二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

「 次回、 開演予定― 未定にて 」

INDEX|6ページ/6ページ|

前のページ
 

「 すっかり、軍人になってきているのかと思ったら、そうじゃなく、きみは、人間を生きようとしているんだね 」

 指先にまだ燃え上がるマッチを持ち、きれいなかたちで男は体を折る。
 軍人二人を宙に保つ、足元のロープに顔を近づければ、眼だけで笑いかけた。

「 おめでとう。
        この先も、人でありたまえ   ――ロイ マスタング 」

 マッチの炎を落とした男の足元で、柱のように火が立った。
 化学物質の燃える嫌なにおい。
 がくんと、ぶら下がる体が一段下がったと思った次にはすぐ、ブツ、と嫌な音。
 長い落下のあとに、意識のとぶような衝撃を覚悟したのに、どさり、とあっけないくらいの着地。

「・・・た、いさ?」
「これぐらい、受け身できなくてどうする?」
 すぐ側、上から発せられたそれに無事を確認。ハボックは、冷たい地面に身をおこしながら、ようやく大きく息をついた。
「肩は、はまってるか?」
「なんとか・・・」痛くてしょうがないが、こんなことを体験してしまった後では、つながっているだけありがたいと思える。
 地面が、見えた。男が出した小さな明かりだった。
「――消えてる・・・」
 冷たい土には、もう、入り組んだあの線が残っていない。
「あの〜・・・大佐?」
「・・・なんだ?」
 ハボックは、どこから聞いたものかを頭で整理しながら、考えることもなく、懐から出したそれを一本口にする。
 
      ひら     ひら         ひらり
 
 目の前を、小さな紙片が踊るように舞い落ちた。
 怖くて、上は見上げられない。
「―払うことになると、言っただろう?」
「・・・こんな高いと、思わなかったですけどね・・・」
 くわえた煙草に、いつまでたっても火がつけられそうにない。
「禁煙をしろ。いい機会だ」
「・・・勤務中じゃないので、ひとりの人間として言わせてもらえれば ――。おれは、あのおっかねえ男に賛成します」
 指の間に、火のつけられないそれを挟み、ハボックはその手を挙げてみせた。
                ぼっ
「・・・・・・・・」
「・・そんな顔でみるな。それは、わたしではない」
 勝手に火のついた煙草をどうしたものか、部下が困った顔をむけてくる。
「――いいか?めったなことは口にするなよ。あの男は、趣味は悪いがユーモアのセンスがあることは、わたしも認める。だが、決して、同調するな。どこで聞いてるか、わからない男だ。 ――連れていかれるぞ」
 最後を、微笑んで告げた男に、聞こうと思っていたこと、全てが消えた。
 帰るぞ、と左腕を引かれて立ち上がる。
 上司がぐるりとまわした光に照らされたのは、本来のなにもない、ただの空間だった。
 いつの間にかやんだ音楽と、眼をふさがれたかのような闇は、どこかへ去った後だ。
 
 上司に続いて、まくりあげた布をくぐろうとしたとき、なぜか後ろで巻き起こった風に、背を押される。
 風にまぎれて、囁かれた。
     
     「  またのご来場を  おまちしております 」


 口にした吸いなれたものが、いつの間にか見慣れぬものへと、すり替わっている。
「―気をつけるんだな。餌付けされたようなものだ」
 振り返りもせずに、今のを見ていたような上司が笑い、背を見せたまま続けた。
「――普段、そんなものとは無縁だと自分で思っていても、本当は、それにいちばん弱かったりするものだ。自尊心。自己愛。持ちすぎていれば、必ずそこをついてくる。哀愁をあおり、郷愁をさそう。誰にでもある想い出を餌にして、ゆさぶってくる。あの男の誘いには、気付かないうちにのっている」
「・・・のっちまった、みたいです・・」
「だろうな。テントを見たときに、すでに始まっていたというわけだ。――今後、どこかで、似たようなテントを見かけたら、近付かないことだ」
 自分にも言い聞かせているだろう上司に、いえっさ、と力なく返した。

 口先で揺れる、すり替わったそれを、しかめた顔で取り上げたハボックは、地面に捨てようかと指先につまんだところで、――思い直すように、やめた。
  再度吸い込んだそれが、いやに美味かったせいで、口もとが笑ってしまう。
 この単純さは、まさしく自分らしいと、男は思う。
 明日は、ここに吐き出される虫、――もとい、遺体を片付けたりなんだりで、きっとまた、忙しいだろう。
 
 だから、それが終わったらでいい。
 終わったら、この、郷愁が消えないうちに、―――実家に、手紙でも、だそうと思う。
 
  月夜に吐き出す煙が、風もないのに流され揺れて、きれいに掻き消えていった。