箱庭の向こうに夢がある
妙に浮かれている年上二名の声が、佳主馬の耳を素通りしていく。わざわざコブを増やしてなにが楽しいのかはわからないが、ふたりとも嬉しそうだからこれでいい……、のだろうか。
「…………」
正直なところ、誘ってもらえたことは嬉しかった。ほんの数日前、母である聖美にしみじみと言われるまで自覚はまったくなかったのだけど、どうやら佳主馬は出会ったばかりに等しい四歳年上の高校生に、かなり懐いているようだったので。
言われて、否定できなくて、さんざん考えてひねり出した結果が「憧れている」だったのだ。佳主馬が持っていないものを持っている、年上の人。腕っ節や身体の強さではなくて、心の強さを持っている人。
「あ、先輩、それ僕が持ちま……うわっ!?」
「けっ、健二くん大丈夫!?」
「だ、大丈夫、です……は、はは……」
──その人は、夏希がいる大広間のほうへと戻ろうと足を踏み出した途端、よく磨かれた縁側で足をすべらせて転びそうになっていたけど。
「……なんなの、一体」
その頼りないのか頼れるのかまったくわからない薄い背中に向かって、ぽつりと呟けば。
「せっかくだし、にぎやかなのがいいんじゃないかな?」
どこからともなく現れた理一が、ぽんと軽く佳主馬の肩を軽く叩いてそのまま通り過ぎていく。
「……そうかもね」
今ひとつ、納得はできなかったけど。
それより、一体どこから現れたのかと、いつから話を聞いていたのかと、聞きたいこともあったけど。
どうせまったく聞いてなどいないだろうから、そう返すだけに留めておいた。
作品名:箱庭の向こうに夢がある 作家名:Kai