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La verite est dans le vin.

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La verite est dans le vin.

*

「今すぐ会いたい」。
 珍しくそんな可愛らしいことを言うものだから急いで飛んできたものの、いくらドアノッカーを叩いても、当のイギリスは一向に現れないのであった。
「……たっぷり三十分待っちゃったんだけど」
 メールをしても返事が来ない。電話をしても通じない。次第に腹が立ってきたフランスは、もう耐えられないといった様子で、許可も得ずにイギリスの自宅へと侵入した。乱暴に靴を脱ぎ捨て、ずかずかと我が物顔で廊下を歩きまわる。こんなことをして、あの神経質なイギリスのことだ、後からこっぴどく怒られることくらいはわかっていた。しかし呼びつけて来たのはそちらなのだから、出迎えるのが礼儀ではないのか。
 フランスは胸の奥で暴れる苛立ちを飼い慣らしながら、少しでも殊勝顔で出迎えてくれると思った自分を、何だか無性に恥ずかしく感じた。
「イギリス!お前、この俺様を呼び付けといてお出迎えもなし?」
 食事でも取っているのかと思いリビングに向かうが、そこには出しっぱなしのティーカップがあるだけで、誰かいる気配は感じられない。カップが二つ出ているところを見ると、一応は俺を迎え入れるつもりはあったということだろうか。
 フランスはリビングを離れると、真っすぐにゲストルームへと向かった。イギリスの家へ来ると大体リビングかここに案内されるので、もしかするとそこにいるのかもしれないと思ったのだが、結局イギリスの姿は見当たらなかった。
「一体どこにいんのよ…」
 もしや俺の訪問を待っている間に寝てしまったのか、と寝室へ向かおうとしたが、すぐに一度もその部屋に案内されたことがないことを思い出して、フランスは眉を顰めた。あまり広くない家だから探すのにそう苦労はしないはずだし、それにたぶん、寝室の場所はわかっている。
 フランスはゲストルームを出ると、迷うことなく右に続く廊下を歩いた。ここより先をフランスは一度も歩いたことがなかったが、ゲストルームでひとしきりフランスと飲んだあとのイギリスが、いつも決まって右側の部屋へふらついた足取りで向かうことを、彼は覚えていた。
「おーい、イギリス坊ちゃん。フランス兄様が来てやったわよ」
 薄気味悪い夜の屋敷に、フランスの声が大きく響く。しばらく廊下を歩いていると薄明かりが視界に入り、フランスは目を細めた。ドアの隙間からオレンジ色のランプの光が漏れている。
「イギリス?」
「…ん、」
「……まったく、呆れた!」
 久方ぶりに訪ねてきてやったというのに、当の本人は酒瓶を抱えて布団に包まっていた。フランスはため息をつくと、眉間に皺を寄せて眠るイギリスの傍に近づく。ほとんど裸に近い格好のイギリスは、「ううん」とか「あう」だとか言葉にならない言葉を、そのしまらない口の端から唾液と共に漏らしていた。
「会いたいって言ったのはそっちのくせに」
 その言葉は眠っている彼の耳に届かなかったようで、フランスはむすっと顔を歪めると、眠っているイギリスの鼻を思い切りつまんだ。次第に息が出来なくなったのか、うっ、と咳き込むような呻き声が聞こえ、フランスは唇の端を持ち上げる。
「さっさと起きろ、この酒乱」
「…フランス?」
「そうだよ」
「…来てくれたのか?」
 イギリスは眠い目を擦りつつ、ベッドから起き上がった。ハシバミ色の毛布が太股の辺りまで滑り落ちると、肩を震わせて小さくくしゃみをした。
「またそんな恰好で寝ちゃって。パジャマくらいきちんと着れないの?」
「いちいちうるせえな…」
 イギリスはほとんど目を瞑ったまま床に落ちている皺だらけのパジャマを拾うと、のろのろとした動作で腕を通し、ボタンを締め終えると今度はズボンを履いた。きちんとパジャマを着たことを確認すると、フランスは固く結ばれた口を開いた。
「またアメリカと何かあったのか」
「…あいつの名前なんて一言も出してないだろ、ばか」
 アメリカという言葉を口にすると、イギリスは弾かれたように大きな声を出した。瞳は大きく見開かれ、口はぽかんと大きく開いている。わかりやすいその表情に、フランスはくすりと微笑んだ。
「坊ちゃんが俺に甘えてくる日はアメリカと何かあった日だって、昔から相場が決まってるのよ」
「…ちくしょう、むかつく」
 涙目でこちらを睨むイギリスをベッドの上に座らせ、布団の中に置き去りにされていた酒瓶を拾うと、フランスはナイトテーブルに置かれていたグラスに瓶の口を傾けた。豊穣の香りのする紫色の水が、透明のグラスにとぽとぽと注がれる。ワインを飲んでいるなんて珍しい。
「フランス、」
「何、どうしたの坊ちゃん」
 考え事をしている最中に名前を呼ばれ、フランスは驚いたようにイギリスを顧みた。唇を震わせたイギリスは、何か言いたげにフランスを見つめている。二人の間を流れる沈黙に耳を傾けながら、フランスはただじっと、急かすことなく、続くイギリスの言葉を待っていた。
「あ、アメリカが、」
「うん」
「アメリカが、アイスを食ってたんだ。それがすごい嬉しそうな、満面の笑みで食ってたから、つい昔のことを―――俺が焼いたアップルパイをうまそうに食ってたことを思い出して、」
「うん」
「そのときの話をしたら、『君はいつも同じ話ばかりして飽きないのか』、って」
「…なんだ、いつものことじゃない」
「い、いつものことって何だ!」
「そのままの意味だよ」
 顔を真っ赤にして反抗するイギリスの頭をあやすように撫で回すと、フランスはワインの入ったグラスを彼の唇に近づけた。イギリスはまだ怒っていたが、差し出された酒の豊かな香りを嗅ぐと、しぶしぶ口をつけた。
「お前たちがぎくしゃくする理由って、いつもそれだよな。お前が思い出を語り出して、アメリカがそれに苛立って」
「…ああ」
「アメリカはさ、悔しいんだよ。昔のように子ども扱いされることが―――お前がまだ、立派な一つの国と認めてくれてないようで」
「お、おれはそういうつもりじゃ、」
「ああ。そのことは、きっとアメリカも薄々わかってると思う。でも心のどこかで納得してくれない部分が、その事実を隠してしまうんだろうさ」
 フランスは神妙な顔つきのイギリスからグラスをそっと奪い取ると、思い切り飲み干してから、ほっと一息ついた。
「お前はそういうアメリカの気持ちを、きちんと理解してやらなくちゃな」
 だって、お前はアメリカの兄なんだから。
 彼が安堵するように優しい笑みを浮かべると、イギリスの宝石みたいな目が、薄暗い部屋の中でもきらきらと光るのが見て取れた。眉がだらしなく下がって、口が微かに震えている。ぽんぽんと頭に手を置くと、途端にイギリスは泣き出してしまった。
「…じゃあ、俺の気持ちはどうなるんだ。俺の、アメリカにわかってほしい、この気持ちは」
 そういうとイギリスは大きな声を上げぬよう、唇の端を噛みしめながら小さく泣いた。こうなってしまった以上は手に負えない。
作品名:La verite est dans le vin. 作家名:ひだり