La verite est dans le vin.
フランスは幼い子をあやすように背中を撫ぜた。掠れた呼吸が鼓膜にじわりと響く。まったく、この兄弟は厄介だ。こいつらは相手のことをわかってやるよりも、まず先に自分の気持ちをわかってほしいと言うのだ。愛は与えなければ与えられないというのに。
止まらない大粒の涙を拭ってやりながら、フランスはイギリスの鼻に軽くキスをした。
「ねえイギリス。お前の気持ちは俺が一番わかってる。…っていう答えじゃ、だめ?」
「…お、お前に俺の何がわかるんだ」
うろたえるイギリスの腕を、フランスは逃げられないようにしっかりと掴んだ。逸らされた瞳がこちらを向くよう、そっとイギリスの名前を呼ぶ。
「イギリス、俺はちゃんと知ってるぜ?お前が同じ話を何度も口にする理由を」
「…本当に?」
「ああ、本当さ」
疑うような表情のイギリスに、フランスはにっこり笑いかけるとこめかみにキスをした。あやすように背中をたたくと、イギリスは彼の首筋辺りにそっと顔を埋めた。
「イギリス、お前は別に、前に話したことを忘れているわけじゃない。ただ、ふとした時に昔のことを思い出して、そのことを口にすると、まるで昨日のことみたいに鮮明に思い出せるから、それがとても懐かしいから、そのとき感じていた気持ちをあいつにもわかってほしいから、何度も同じことを口にするんだよな。――でもアメリカにはそれがわからない。あいつはお前と同じ気持ちを知っているはずなのに、共有することができない。今のあいつにはただお前が、今まであった事実を嫌味みたいに繰り返しているだけにしか見えないんだ。イギリスは小さい頃の俺の方がよかったんじゃないか、ってな」
フランスの言葉に、イギリスは何の返事もしなかった。しばしの沈黙の中、フランスの鎖骨に溜まる涙が、恐らく答えだった。
「アメリカもきっと、もう少しすればお前のことをわかってくれる」
「うん、」
「…それまで俺で我慢しな」
震える頭を抱きしめていると、フランスは少しだけ昔のことを――小さなイギリスのことを思い出した。あの頃は何だっただろう、兄にいじめられたとか何だとか、そんな話だったか。
フランスはくすんだ金色の髪を優しく撫ぜてやりながら、いつだってこいつは兄弟のことで泣いているのだな、と思った。
(La verite est dans le vin./2010.12.04)
作品名:La verite est dans le vin. 作家名:ひだり