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『俺のこと好きでしょ?』
サラッと核心を突かれて、次の瞬間には頷いてた。

『やっぱりね。良いよ、付き合おう。』

“帝人くんて興味深いし”
そう、言葉は続けられた。

じゃぁ、その『興味』が無くなった時、僕はあっさり切り捨てられてしまうんだろうな、と。
好きな人と付き合えた嬉しさよりも、そんな悲しい思いが僕の胸を包んだ。



臨也さんの恋人は僕を含め、たくさんいる。
その中でも僕は割と家に呼んで貰えてる方だと思う。
だけどそれはけして、僕が他の人より愛されてるからじゃない。
『ねぇ、帝人くん。明日うち来れる?』
「何時ごろですか?」
『えー、出来るだけ早く。』
「わかりました、学校出て直で行きます。」
『あ、ほんと?それ助かる。だから帝人くんて好きだよ。』

“俺の思い通りに動いてくれてほんと助かる。都合がいいよね、だから帝人くんて好きだよ”
と、臨也さんのセリフに隠された部分を全部わかってて、なお、嬉しくなってしまう自分はどうしようもない馬鹿だ。

「はいはい、じゃ、明日。」
『うん、明日ね。』

ツーツーと、携帯からそんな虚しい音が響く中で
「『好き』だなんて誰にでも言うくせに…。」
本人には絶対に言えない僕の本音も虚しく響いた。

臨也さんは優しい、けれど冷たい。
僕のことを好きだけど、僕だけを好きではない。
捻くれて歪んでるあの人に、これ以上を求める方が愚かだとはわかってる。
それでも、大人の付き合いをするには、僕はきっと子供過ぎた。
それなのに、まだ必死に背伸びしてる。

少しでも傍にいたくて。


学校を出て、臨也さんの家へ向かう。
今日はあの家でいったい何が待っているのか、わからない。
あまり酷い修羅場じゃないことを願うだけだ。


前回呼ばれたときは女性二人が半裸状態で言い争っていた。
臨也さんは計画的なようで意外と適当なところもあるから、よくそういう鉢合わせ状態を作る。

『ねぇねぇ君たち、此処にイタイケな少年が居るんだけど。』
怖い顔して言い争っていた女性は臨也さんのその一声で僕を見る。
僕は出来るだけ「…大人のお姉さんって怖いっ。」と怯えるような顔で女性を見た。
その僕に怯んだ二人にたたみかける様に臨也さんは続けた。
『俺の大事な友人が怖がってるからさ、とりあえず、今日は二人とも帰ってくれない?』
笑顔でそう言った臨也さんに促されて、女性は出て行った。
でも、その瞬間にもう二度とその人たちは臨也さんの家には入れない。
ジ・エンド。
臨也さんは面倒事が何より嫌いだから。

『帝人くんてほんと使えるよね。』
気分爽快に臨也さんにそう言われ、僕は苦笑するしかなかった。


エレベーターを出て、臨也さんちのインターホンを鳴らす。

「はぁ〜い。」
甘い、甘ったるすぎるほど可愛い声が返ってきた。
ガチャリと開けたドアの向こうに立っていたのも、その声に負けずとも劣らないほど甘いマスクの女の人だった。
「あれ〜?だぁれ?」
「あ、僕…。」
「俺の友人だよ。」
臨也さんが部屋の奥から出てくる。
「いざぴょんの?」
いざぴょん!?思わず噴き出しそうになるのを堪える。
「そ。今日来るって何度も言ったでしょ?」
「そうだけど〜、絶対別の女が来るんだと思ってたんだもんっ。」
女の人はぷくっと頬をふくらます。
「本当に友人だってわかった?今日はこの子がうちに泊るんだから帰ってよ。」
「もぉ、いざぴょん冷たい〜、そこが良いんだけどぉ。・・・わかった、ちゃんと男の子が来たから、りさ、帰るぅ。」
女の人は『絶対また連絡してね。』と、言い残して帰って行った。

「・・・いざぴょん。」
臨也さんの部屋に入って第一声、僕は呟いて噴き出した。
「帝人くん、いきなり失礼じゃない?」
「だ、だっていざぴょんて…そ、そんな柄でもない。」
僕が笑いながらそう言うと、臨也さんは冷たい笑みを浮かべて言う。
「あのテの甘い子ってたまーに食べたくなるけど、たくさん食べると胸やけしちゃうんだよねぇ。」

ああ、あの人も切り捨てられてしまうんだ。
僕はさっきの可愛い人を思い出して少し胸が痛む。
なんて、偽善だけど。

「助かったよ帝人くん、ありがと。」
「いえ。」
「ほんとに誰もまさか帝人くんも俺の恋人だなんて思わないからね、いつも救われてる。」
その言葉に僕がどれだけ傷つけられてるか、臨也さんは知らない。
「お役に立てて良かったです、じゃぁ僕はこれで。」
「え?」
僕が立ち上がると、臨也さんは首を傾げた。

「帰るの?」
「はい。」
「明日何かある?」
「いえ、…特には。」
…言ってからしまった、と思った。
「じゃぁ泊ってきなよ。」
「あ、いや…泊る用意も何も…。」
「俺の貸すし。」
「でも、」
「さっきの子が外で見張ってるかもしれないでしょ?帝人くんが帰ったらまた来るかも。」

作品名:答えは簡単 作家名:阿古屋珠