答えは簡単
僕は苦笑した。
「僕みたいな淡白なのじゃ、口直しにはなっても臨也さんを満たせませんよ。」
自虐的だと思って笑ってくれるんじゃないかと思ったのに、臨也さんは泣きそうに顔を歪める。
「違う、違うよ、口直しなんかじゃっ・・・。」
「臨也さんがそう言ったんです。」
「だから、違ったんだって。」
「どうしてわかってくれないの!」と臨也さんは僕を睨んだ。
「わ…わかるわけないじゃないですか!」僕もたまらず叫んでしまった。臨也さんの目が見開かれる。
限界点を超えた。
本当はとっくに超えてたんだ、おそらく。
「僕が、僕がどれだけ我慢してたかっ、臨也さんは全然知らないくせにっ。」
「帝人く、」
「告白したその日に無理やり抱くしっ。」
「え、あ。」
「初めてで、怖いし、痛いし、」
「…初めてだったのっ!?」
「当り前ですっ。」
「…お、俺が初めてだったんだ…。」
こんな状況なのに、臨也さんは嬉しそうに笑う。
僕はカッと頬が熱くなった。
「他にも恋人が居るってわかって、そんなもんかって思って…もう、必死に、ひっしに、」
ボロボロと涙が落ちた。
臨也さんの前で泣くのは初めてだ。
「ず、ずっと泣くの我慢してっ・・・。」
「臨也さんなんて大っきらいだ!」
*
すんすんと鼻を鳴らしてる帝人くんを抱きしめて、泣きやむまで待った。
すごい、帝人くんを抱きしめてるだけなのに、何もかもが満たされていく。
心の中の喪失感が埋められていく。
「離して下さい、僕、帰ります。」
「やだよ。」
俺は即答する。
例え、帝人くんがどんなに俺を嫌っても、もう逃がすことは出来ない。
「っ、もう、これ以上僕を惨めにしないで下さい。」
惨め?
惨めなのは俺の方だ。
帝人くんが居なくなっただけで、仕事はポカるし大損するし、苛々してしばらく止めてた煙草を吸わなきゃいけなくなるし、部屋も汚いし、もう、生き方を忘れてしまったんだよ。
帝人くんが俺の傍に居ない、生き方を。
「俺のこと好きでしょ?」
最初と同じ質問をすると、腕の中の帝人くんが身じろぐ。
「嫌いです。」
「そう、じゃぁそれでも良いよ。俺は帝人くんが好きだもの。」
「っ、だ、誰にでもそう言うくせに。」
帝人くんにそう指摘され初めて気が付く。
俺、帝人くん以外に『好き』って言ったこと無い。
そりゃお世辞言ったり、おべっか使ったりはしたけどね。
なんだ、とっくの昔に、俺は無意識にわかってたんだ。
「帝人くんにしか言わないよ。」
「嘘吐き。」
酷いなぁ。本当なのに。
でも、これからわかって貰えば良いか。
*
俺はふと、未来のことを考えた。
どう考えを巡らせても、君が居ない未来なんて想像できなかった。
つまりは、そういうことだったんだ。