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黒も見慣れたよ

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ボヌフォワ


 日暮れの後、夕飯の準備にと絶妙の焼き加減のキッシュを放って、高速道路に車を飛ばす、理由なんてたった一通のメールで十分であった。もう遅い時間帯、混雑などは全くなくスムーズに車は進む、順調にいけば一時間もせず彼の家に着くであろう。会いたい、なんて殊勝な台詞、彼らしくも無く珍しい。出来たてのキッシュは箱に詰めてお土産にした、助手席から車内に漂う匂いに空腹が刺激され、腸が鳴る、誰にも聞かれずとも、お洒落を気取るフランス人の性であろうか、恥ずかしく、ごまかすように煙草を加えて火を点けた。窓を開けて、煙を逃がす、と、ちょうど道路が河を渡った。国境。もうすぐ着くぞ、と思えば余計に腹が減って、少しだけ、アクセルに掛ける力を強める。
 キッシュが乗っている助手席に、一昨日は可愛い女の子が乗っていた、と、ふと右の方に視線がそれる。いつまでも少女のままだと思っていたのに、好きなんです、なんていつかは来ると思っていた時が、意外にも早く来たようで少し寂しい。少女は今までどおりを望んでいて、彼だって態度を変えるつもりは無かった。変える必要も無かったであろう、少女はふられることなど予測済みで、毅然と背筋を伸ばしていたから。たとえば男ならば、ふられると分かっていれば本気で恋などしないものだ、万一恋に落ちたとしても、のらりくらりとやり過ごし、告白などは選択しない。傷つくことを承知で、一縷の望みも無い決断を、出来る女、は得てして尊敬の対象であるし、幼少を知っている彼女がたくましく育ったことをボヌフォワは嬉しく思う、たとえ自分が傷つけてしまったとしても。
 彼女と交わした会話を思い出す、「俺はあいつを欲しいけれど、あいつは俺を欲しがらないのよ、俺以外にも何物もね」、どうして話すべきでない本音を言ってしまったのだろうか、多少と後ろめたさがあったからか、あるいは自分の弱音であったか。少女や、周りの者たちは大抵二人が恋人同士なのだと勘違いしている。一番近い親友である、いや、悪友であるバイルシュミットでさえもたとえばホテルで相部屋を辞退したりする程度には、気を使ってくれている。誤りだ。確かに、カリエドとボヌフォワは頻繁に会って食事やデートまがいの同行、会えばキスをするし、ハグも、セックスだってする。ボヌフォワは彼を好いているし、愛しているといっても過言ではない、おそらくカリエドの方も同じように好いている。しかし、それらの条件が揃えば恋人、などと、学生のような淡い考えに浸れるほど、二人は年若くなかった。プライドや、周囲の環境や、地位や立場、義務や名声や守るべきもの。色々なものが二人を阻んだ。セフレでええやん、端的に彼がそう言ったのはもう一世紀以上も前で、以来二人はそうやって関係してきた。恋人なんて煩わしい諸々を楽しめる余裕は、確かに二人にはあった筈なのだけれど、諸事を差し置いて単純に結ぶ関係で十分に二人は満足していた。多少の、不満はありやなしや、しかるにいずれの関係に円満が望めよう? ボヌフォワ自身は、恋人を名乗るには心障は無い、ただカリエドが何かと理由をつけては曖昧にするので、それで良いかと思っている、ただし、きっかけさえあれば、前に進むこともあるだろう、とも、俯瞰的に思ってはいた。

作品名:黒も見慣れたよ 作家名:m/枕木