メルヘクエスト―3章
……ギンタの視線が痛い。
そう思っているのは裾の長い服を身に纏い杖を武器とするアルヴィス、とドロシー。
「なぁなぁ!今の!もう一回やってくんねー?」
例の如く魔物撃退後に現れた硬貨を拾い上げるナナシ。
我関せずを決め込んだらしい…アルヴィスの珍しい「手助け頼む」という視線を完全に無視している。
「(クソっ、後で覚えてろよ…。)」
「なぁ~アルヴィスぅ、ドロシーぃ。」
良いじゃん減るモンじゃないし~と駄々を捏ねるギンタ。
原因はつい先程の戦闘…空を自由自在に飛び奇襲を仕掛けてくるタイプの魔物相手に、ドロシーとアルヴィスが“魔法”を使ったのだ。
杖先の青い宝石から稲妻を発生させたアルヴィスに、木製の杖を振って風を操り魔物を地面に打ち付けたドロシー。
ワクワク大好き冒険大好き、メルヘン大好き!なギンタが騒がない訳が無かった。
戦闘終了と同時に詰め寄られた、逃げられない。
「ギンタン…さっきアルヴィスがスノウに言ったばっかりでしょ?」
「えぇ~………分かったよ、ちぇ~。」
胸を撫で下ろしたのも束の間、2人はギンタの呟きを聞き逃さなかった。
「早く敵出て来ねぇかな…。」
あ、次の戦闘コイツ戦う気無い。
こういう時だけ頭の回転が素晴らしく速くなるギンタの事だから、態々魔物を誘導して強制的に戦わせて来る。
「(普段は簡単なルールも理解出来ない様なタコなのにっ!)」
思わずこんな奴に育てた親を見てみたいと思い掛けて、アルヴィスは踏み止まった。
ギンタの父親になら、6年前に会っている。
ダンナだ。
あの人は確かに童心を忘れてはいなかったけど…コイツは落ち着きが無さ過ぎる。
軽い頭痛を覚えながらも、在りし日の思い出に想いを馳せた……。
蘇るのは戦争中ながらも楽しかったあの頃。
ダークネスを誤って発動して悲鳴を上げるダンナ。
面白い形状のARMをいじり回した揚句破損させてしまい、アランとガイラに怒られているダンナ………。
アルヴィスは思い出を強制終了させた。
そして始まる自己暗示。
あの人は俺の憧れ、前大戦の英雄、戦闘時を思い出せ格好良かったなぁ本当に惜しい人を亡くした、戦争の代償は大きかった。
「ギンタ!アルヴィスも何ボーっとしてるッスか?!魔物が出たッスよ!」
「お!よっしゃぁ~今行くぜー!」
トリップしていた世界から戻って来たアルヴィスとドロシーの心配事が追加された。
森に棲む大型の魔物、そこに辿り着くまで、はたして自分達の魔力は残っているだろうか……。
嬉しそうに魔物の群れに突っ込んで行くギンタの後ろ姿に、今はもう不安しか感じられない2人と、そんな2人に無言でエール又は黙祷を送る残りの4人。
先行きは不安だ…。
TO_BE_CONTINUE_
作品名:メルヘクエスト―3章 作家名:春雲こう