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メルヘクエスト―3章

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 拳が敵の体躯にめり込み、ミシミシと音を立てて形が歪む。
 吹っ飛んだ魔物は後方へ吹き飛び、木の幹に衝突して、消えた。
 「やっと片付いたぜ…。」
 そう言ったのは今しがた魔物を殴り飛ばしたアラン。
 「こうも連戦続きだときついッス~。」
 ジャックもスノウも、ドロシーやアランまでもが、慣れない戦い方での連戦に疲れを隠せないでいる。
 「本の中でも、外と同じ戦い方が出来れば良かったのに…。」
 頬を膨らますスノウは、本の中では戦えない。
 厳密に言うと、彼女が魔物を攻撃しても意味が無いのだ…振り下ろした杖は何の手応えも無く弾かれてしまって、彼女に出来る事は仲間の傷を癒す事だけ。
 スノウと同じ様な武器を持つドロシーやアルヴィスも、近戦は目晦まし程度の威力しかない…まともに戦闘に参加できる分、スノウより抱えるジレンマは少ないだろう。
 「お、また何か出たぞ!」
 キラキラと瞳を輝かせるギンタの指の先、そこに生まれた光の粒子。
 一筋の強い光を発した後形になったのは、星や丸等の、どこかオモチャじみた形のお金だった。
 「魔物を倒して金が手に入るって…一体どんなシステムなんや?」
 草の上に並ぶ硬貨を拾い上げ、無造作にポケットに突っ込んだ。
 そんなナナシを横目に、スノウは杖をギュッと握りしめる…。
 「皆、怪我は無い?」
 「大丈夫だぞスノウ!あっても掠り傷程度だし。」
 「掠り傷でも…放っておいたら化膿しちゃうかもしれないよ?見せて、今治すから…。」
 「スノウ?」
 有無を言わさずギンタの腕を掴んだスノウ。
 ……その様子は何処か必死だった。
 「スノウ。」
 杖を翳したスノウを遮る様に、アルヴィスが静かに彼女の名前を呼ぶ。
 「焦っちゃダメだ。…君の力は俺達に必要な物なんだ。出来る限り温存して貰わないといけない…辛いかも知れないが、耐えてほしい。」
 「アルヴィス…。」
 そうだろ?とアルヴィスは他のメンバー―主にドロシーとナナシ、アラン―に同意を求める。
 「そうよ~、アタシもアルヴィスも、攻撃系の“魔法”は使えても回復は微妙なんだから。」
 「せやせや、君かてホーリーARMの大事さは解っとるやろ?イザっちゅう時に使えん様になっとったらゲームオーバーやからなぁ。」
 「焦るこたぁねぇよ。お前はお前にしかできねぇ事をすれば良いんだからよぉ。」

 ―確かに<諦めるな>って言ったけど、無理もするな!

 思い出すのは、自分が過去に言われた言葉。
 スノウの口元が柔らかく笑みの形を作った。
 「そうだね…私は私のペースで頑張れば良いんだよね?」
 戦えないという悔しさ、皆の役に立てないという苛立ちから焦って波立っていた心が急速に穏やかな物に代わって行く…。
 「ごめんね…何だか、焦ってたみたい。あ、皆怪我したら言ってね?本当の怪我じゃなくても痛いものは痛いもん。」
 「おう!スノウも戦いになったら無理しちゃダメだぞ。」
 「了解なのだ!」



作品名:メルヘクエスト―3章 作家名:春雲こう