give me, give you
買ってきたチキンとワインと、ナミが作ってあげたサラダとペペロンチーノ、それとデザートにコンビニで買った小さな二個入りのケーキで、それなりにクリスマスらしい食卓となった。
ゾロのアパートに来るのは、ナミは初めてだった。ゾロの部屋の台所に立ち、簡単なものとはいえゾロのために料理しているという事実はナミを甘い気持ちにさせた。
二人とも酒には強かったから、ワインを飲んでも酔うようなことはなかった。このときばかりは、酔えない自分をナミは恨んだ。それでも、ナミと楽しそうに食事をしながら、ときおりサンジのことを思い出すのかさびしげな表情を見せるゾロを、もう放っておくことは出来なかった。
「ゾロ」
ゾロの隣に座り、首に腕を絡ませ顔を寄せる。ゾロはただ黙っていた。ナミはそのまま唇を触れ合わせた。
「……こういうのは、よくねェんじゃねェのか」
「こういうのだから、いいのよ」
ナミはゾロの手を取り、自分の胸へといざなった。服を着たままで下着もつけている状態では、本来の柔らかさは伝わらないだろう。それでもゾロの手は、確かにナミの胸を掴んだ。
「服、脱ぐわ」
「……いいのか」
「ゾロは、嫌?」
聞きながら、ずるい女だ、とナミは思った。こんな言い方をしたら、ゾロのように真面目で優しい男は、ナミに恥をかかせまいと誘いに乗るしかなくなるだろう。
「お前が嫌じゃねェんなら、……おれは」
だがナミの予想に反して、ゾロはそう言うと、自らナミにくちづけた。優しく床に押し倒され、ナミはゾロの向こうに天井を見た。
「ナミ……」
「ゾロ」
不意に名前を呼ばれ、泣きそうになるのを必死に堪えて名を呼び返す。服を脱がすのももどかしく、性急に肌をまさぐり始めたゾロの手に、ナミは思考を飛ばして全てを委ねた。
急に携帯電話が鳴って、ナミは驚いてぎくりと身を揺らした。鳴っているのはゾロの電話だ。床に投げられているそれを、拾い上げてみればディスプレイには「サンジ」と表示されていた。
ゾロはナミと入れ違いに風呂に入ったばかりで、当分出てはこないだろう。いけないと分かっていても自分を止められず、ナミは通話ボタンを押した。
「ゾロ? ごめんな、今日休みだったのにジジイにこき使われちまって」
時計を見れば日付が変わるまであと30分くらいある。パーティーがお開きになり、家に帰る途中だろうか。
そんなくだらない言い訳をするサンジがおかしくて、ナミの口元は知らず笑みの形にゆがんだ。ゾロが何も知らないと思って、そうやって、いつも、ゾロを振り回して、あたしの、あたしの大事なゾロを。
「何か言えよ、怒ってんのかよ……悪かったって、なァ、ゾロ」
そのくせ甘えた声を出す、ゾロを手放したくないのなら、もっと大事にするべきなのに。本当はサンジだって、ゾロのことが好きなくせに。
「初詣は絶対一緒に行くから、だからゾロ、」
「……ゾロなら、いまお風呂よ」
とうとう我慢できずに、ナミは言葉を発した。それを言ってしまえばもう、今までどおりではいられないと分かっていながら、黙ってはいられなかった。
「…………ナミさん?」
「あたしはさっきあがったところ」
ナミのこの一言で、サンジは全てを悟っただろう。ゾロがサンジの嘘を知ってしまったことを、ナミがパーティーに来なかった理由を、―――二人の間に、今夜、何があったのかを。
「いま、どこなの……」
「ゾロの部屋よ」
サンジの声は震えている。対してナミは自分でも驚くほど冷静な声で答えていた。
「サンジくんから電話があったって、ゾロに伝えておけばいい?」
「あ、いや、……いいよ」
「……そう」
じゃあ、切るわね。そう言ってサンジの返事も待たず、ナミは通話を切った。着信履歴も削除して、今の電話をまるでなかったことにした。
「…………っ」
堪えていた涙が、堰を切って溢れ出す。
恋しい男と結ばれて嬉しいはずなのに、ナミの胸に去来するのは寂しさと哀しさだけだった。ただゾロを好きで、ゾロに笑っていてほしいだけだったのに。ゾロを幸せにするはずのサンジがあまりにもひどい男で、ナミはゾロを放っておくこともできずに、とうとう手を伸ばしてしまった。
サンジはきっと今ごろ、ゾロはおれのものなのに、そう思っていることだろう。だったらゾロの傍にいるべきなのに、女にふらふらして、そうしてサンジはいつも、ゾロがどこまで自分を許してくれるのか試していた。そして今夜、ゾロはついに耐え切れずに、ナミに救いを求めてしまった。
もう元には戻れない。もうゾロは、ナミをただの友人としては見てくれない。サンジだって、今までのようにナミに接することなどできはしない。
「うっ……ぅうっ……」
早く泣き止まなければ、ゾロが心配してしまう、ゾロに優しくされてしまう―――そう思えばますます涙は止まらずに、ナミはひとり嗚咽を漏らした。
作品名:give me, give you 作家名:やまこ