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まさきあやか
まさきあやか
novelistID. 8259
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悪魔と唄えば / リボツナ

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それは、まだ並盛高女子生徒殺人事件が起きる少し前。まだ夏の暑さが残る時期のことだ。
そんなある日、沢田家に来客があった。

「…どなた?」
「あ、あのマグナ・クレスメントと言います」

 そう言って訪れた少年が操るのはドイツ語だ。戸惑う綱吉に少年はそっと封筒を差し出す。差し出し人の名前はボンゴレ九代目とある。

「…九代目?」

 なんだろ?と、綱吉とリボーンが顔を見わせる。
 とりあえず少年を家に上げ、お茶を出す。その前で手紙に目を通す綱吉。しっかりと死炎紋つきのそれは間違いなく九代目からの勅令状だ。
だが、目が下にさがるにつれ、だんだんと険しくなる綱吉の表情に目の前の少年はだんだんと身の置き場がないように身を縮ませ、リボーンは首を傾げる。

「おい、どうしたんだ、ツナ」
 綱吉は尋ねる家庭教師の言葉には返さず、手紙をリボーンにつきだし、自分は携帯電話をつかんで登録してある番号を呼び出した。
 綱吉が連絡を取ったのはもちろん九代目のプライベートコールである。

「おぉ、どうしたんだね、綱吉君」
「九代目、どぉぉぉいうことでしょう?」

 のんびりとした九代目の口調に、綱吉はドスが利いた声でそう尋ねた。しかし、相手は長年ボンゴレのドンをしている九代目である。
 綱吉の怒りなどどこ吹く風と様子で「ふふ」と穏やかな笑い声が帰って来た。

「君から連絡があるということは彼は無事に貴方のところに着いたようだね」
「えぇ、そうです。しかし手紙にはしばらく預かってほしいしか書いてありません。どういうことですか?」

 しかも初代からの契約とか言うじゃないですか!あの若作り童顔はどれだけ子孫に迷惑かければ気が済むんだ、あぁん!?と、全身で叫ぶ教え子に、リボーンはため息をつく。
 おそらく超直感で己の後継者の心の叫びを聞いているだろう九代目は、どこまでも穏やかだった。彼にとっては綱吉の叫びなど予想の範囲内なのだろう。

「こちらも詳しくはわからないんだが…その子…マグナくんが持ってきた契約書は間違いなく初代のサインで、死炎紋も初代のものだと言うことが確認されてるんだよ」
「?どういうことですか?」

 首をかしげる綱吉に九代目はどこまでも穏やかに彼が求め、そして出来れば聞きたくないと願うだろう事実を告げる。

「どうやら昔に初代がマグナくんのお家の人に助けてもらったらしくてね、その恩返しらしいよ」

 一族の者に困難が振りかかった時にボンゴレが全力で助けるとか何とか約束したらしくてねぇ…と言う九代目の言葉に綱吉は携帯電話を耳に押し当てたままその場に座り込んだ。

「だからって、なんでオレの所に来るんですか」

 ボンゴレが、と言うなら九代目の方で何とかするのが筋だろう。と言う綱吉に、九代目は「まぁまぁ」と朗らかに笑う。

「マグナ君と綱吉君は年も近いし、それに今後の事を考えたら私よりも君の方がいいと思ってね」
「へ?」

 どう言うことでしょう?と、首をかしげる綱吉の疑問には答えずに、九代目はとりあえず必要な情報を言うよ。と告げた。

「マグナ君は東欧の小国の貴族なんだけど、ちょっとお家の方がごたついててねぇ」

 後継者争いってわけじゃないんだけど。と、言う九代目だが、つい最近に貴族のお家騒動に巻き込まれた綱吉は嫌な予感に顔を引きつらせる。

「えぇと、当主になったのは誰なんです?」

 初代が関わったと言う事は、まっとうな商売をしているはずがないと決めつけて綱吉が恐る恐る尋ねる。
 いくら当主が決まったからと言っても当主本人もそして破れた方も安全とは言い難い。敗者は常に下剋上を狙い、勝者もまた転落する事を恐れなければならない。
 綱吉にもまた、ザンザスと言う存在がいる。本人はすでにボンゴレのボスにこだわってはいないようだが、それでも決して気を抜いてはいけないと、その存在を持って綱吉に警告するのだ。
 しかし、そんな綱吉の懸念を吹き飛ばすように九代目が笑う。

「マグナくんのお兄さんだよ。兄弟仲は極めて良好…いや、よすぎたと言うべきなのかねぇ…」
「?」

 微妙な言い回しに、綱吉が首をかしげる。

「まぁ細かいところは本国で片をつけると言うから、綱吉君はマグナくんの疎開だけたのむよ」
「疎開って…」

 そんな貴族の子息をうちみたいな普通の家で預かっていいのだろうかと綱吉は少年を振りかえってしまう。そんな綱吉に九代目は大丈夫だよ。と、九代目が笑う。

「特殊な育ちをしている子だから、〝普通〟を経験させてほしいって言うのが向こうのお家の人の意向なんだ」
「…そういう意味では普通とかけ離れている気もしますが…」

 何しろ住人が綱吉の母を除けば全員裏社会の暗殺者や情報屋である。しかしそんな綱吉の懸念を九代目は笑って吹き飛ばす。
さらに後は任せたからね。と九代目は言うと、通話を切ってしまった。
沢田家に新しい居候が増えた瞬間である。

「えぇと……改めて、沢田家にようこそ、えぇとマグナくん?」

 先ほど少年が名乗った名前を呼べば、少年はびくりと身体を震わせた。
それも仕方がないだろう、さっきほどさんざんイタリア語とはいえ九代目とやり取りをしていたのだ。人間なんとなく言葉はわからずとも雰囲気と言うのは伝わるものだ。
 自分が歓迎されていないことなどわかるだろう。しかし、少年がここ以外に行く場所がないこともまた事実だ。だからこそ、少年は深々と頭を下げる。

「このたびは無理を言って申し訳ありません。しばくご厄介になります」

 そう、今度は日本語で言うマグナに、リボーンが「おめーよりしつけがなってるな」と感心したように頷き、綱吉が「ほっといてよ」と頬を膨らませた。





 ひとまずマグナを母やビアンキに紹介し、綱吉はリボーンと共に自室に引き上げた。彼がしゃべれるのは英語とドイツ語、それから簡単な日本語なので、とりあえず日常会話は英語でしてもらう予定だ。
 母である奈々はもともと父、家光と結婚して勘当されるまでは良家のお嬢様だったので英会話には堪能である。
 ちなみに日本語がしゃべれるのは、日本びいきの初代が関わっているらしい。

「……何をしていらっしゃるのでしょう、雲雀さん」

 ガチャリとドアを開けた綱吉は、自分の部屋にドン!と座っている雲雀の姿に思わずそう言って脱力した。
 そりゃたしかに綱吉の部屋の窓は――2階にあるにもかかわらず――第二の玄関のようになっているが、持ち主がいない時に出入りするのはいかがなものだろう。
 しかし、それをバカ正直に訴えた所で、聞き入れる可能性は限りなく低い。よって綱吉は泣く泣くそれを飲み込んだ。彼が諦めのいいマフィアのドンランキングで殿堂入りする背景には、こうした日々の積み重ねのせいだろう。

「跳ね馬から、留学生を一人預かれって依頼が来たんだけど」

 そいつ、君の所に厄介になるんだろ。と言われて、綱吉は九代目がディーノを通して雲雀にも手をまわしていることを初めて知る。

 ―――八方ふさがりか…

 ドンになる教育を受けているとはいえ、まだまだ九代目の掌の上にいる自分に綱吉はため息をつく。

「どのクラスになるんです?」
「十八ってことだから君のとこ」