悪魔と唄えば / リボツナ
まぁわかってましたけどね。と、雲雀の言葉に頷きつつ、山本、獄寺、そして自分と言う何とも言えない面々の担任を引いてしまった教師の顔を思い浮かべ、内心合掌する。
獄寺は言うまでもなく、学校の成績はいいが素行はすこぶる悪いのだが、山本もあれはあれで結構教師泣かせの生徒だ。野球にかまけて成績が低空飛行なのはまだ許せても、その野球を二年生できっぱりやめたとなれば、教師陣は悲鳴を上げただろう。
さらにこの時期留学生とは、今度胃薬でも差し入れた方がいいだろうかと綱吉はため息をついた。
「雲雀さんはディーノさんから詳しく聞いてますか?」
「あんまり」
とりあえずしばらく預かってくれの一点張り。今度顔見せたら噛み殺す。と、壮絶な笑みを浮かべる雲雀を前に、綱吉は己の兄弟子の生存を祈るしかなかった。
*
さて、翌日。雲雀の言う通りマグナは綱吉のクラスに編入と言う形でやって来た。
雲雀恭弥の指示で入って来たとなれば教師も生徒も身構えるものだが、そこはやはり三年生。ある意味でこの高校で三年間を無事過ごしてきたツワモノである。
何の問題もなく、とは言い難かったが、それでも数日たつ頃には徐々にクラスに馴染み始めていた。それに、やはりマグナが馴染むことが出来たのは京子と山本の存在が大きいだろう。
「マグナくんは、学校に通ってなかったの?」
クラスのいや、学校のアイドルと言ってもいい彼女が声をかければ、マグナも緊張をやや解いたような笑みで頷く。
「はい、家庭教師や兄が勉強を見てくれましたので、学校に行ったことはありません。だから、とても楽しみです」
「そうなのなー。楽しーぜ学校。勉強はちょっとなんだけど」
そこをすかさず山本がとられて皆を和ませる。そんな様子を見ながら、綱吉はこれなら大丈夫だろうとため息をついた。マグナ自身も人懐っこい性格をしているようなので、問題も起きないだろう。
しかし、相変わらず綱吉は何故マグナが日本に〝疎開〟しなければならなかったのか聞いていない。
おそらく、読心術を使えるリボーンは――さらに九代目経由で――事情を知っていると思われるが、なにも言わないところをみると、とりあえず大丈夫だろう。
もっとも、彼の場合はその方が面白いから、と言う理由だけで黙っている可能性もあるが、綱吉にはどうにもできないので、気にするだけ無駄だ。
「一問不正解だぞ」
「あだっ!」
夕方。マグナを含めた獄寺たちと共に宿題をしていた綱吉は、リボーンの人と子と共にレオン型ハンマーに頭を殴られて呻いた。
「口で言えばわかるよ!」
「言ってもわからねーからだろうが、ダメツナめ」
こんな単純な間違いをするんじゃねーぞ。と、元に戻ったレオンの肩に置くと、リボーンがため息をつく。綱吉は差し出されたプリントを受け取ると、指摘された箇所に目を通す。
「あぁ、ここかぁ」
「落ち着いてやればできるんだぞ」
計算間違いしてる。と消しゴムを取り出した綱吉にリボーンがため息をつく。そんな二人のやり取りを見て、マグナがクスリと笑みをこぼした。
「どうしたんだ?」
それに気がついた山本が首をかしげつつ尋ねると、マグナは「あ」と言うように自分の口元を押さえた。
「いや、ツナを笑ったわけじゃないんだ」
マグナも短い間ながら、山本と獄寺がどれだけ綱吉を大切にしているかは見て取れる。それは、自分も本国では大切にされていると言う自覚があるからだ。
だから、少しあわてたよう誤解を解く。
「少し思い出したんだ。俺にも厳しいセンセイがいたから」
そう言って目を伏せると、問題を解き終わった綱吉が改めてリボーンにプリントを差し出しつつ首をかしげる。
「そう言えば、家庭教師って言ってたもんね」
九代目も特殊だ育ちをしていたと言っていた。と言う事を思い出す綱吉に、マグナは頷く。
「ちょっと間違えると〝君はバカか?!〟てポカッと」
そう言ってマグナは腕を振る動作をする。どうやら丸めたテキストで頭を叩かれたのだろう。
ポカッとならいい方だと思うな。うん。と言うのは少し黙っていようと思う綱吉である。自身の家庭教師はボカ!とか、ドカ!とか、時にはドキューン!とか、ちょっとじゃなく痛そうな音しかさせない。
「なんだ?プチっとかぺしゃっとかがいいのか?」
「圧死!?いやいや、望んでないよ、望んでないから!!」
可愛らしく小首をかしげるリボーンに、綱吉はブンブンと首を振った。確かに可愛らしい擬音かもしれないが、そこから想像できる事象が物騒すぎる。
ブンブンと首を振る綱吉に、山本とマグナが顔を見わせ、獄寺が顔を引きつらせた。
「そう言えば、クラスの子が文化祭?とか言うのがあるから写真を撮りたいって言ってたけど…」
宿題が終わった後、店の手伝いがあると言う山本とこちらも用があると言う獄寺が帰り、現在は夕食までのまったりモードである。
おそらくリビングではランボやイーピン達が宿題をやっていることだろう。そんな中、ピコピコと並んでテレビゲームに興じていた二人なのだが、不意にマグナがそう尋ねた。
「あ~そう言えば、いいのかな?」
「どうなんだろうな」
あと一月もすると綱吉達が通う並盛高校で文化祭が行われる。特に今年は恐怖の風紀委員長、雲雀恭弥が卒業しているため、なんとなく学校全体が浮かれていた。
綱吉達のクラスもそれは同じことで、その結果、男子はホストクラブ、女子はメイド喫茶になったのだ。
「…いいのかなぁ」
いいとこのお坊ちゃん。て感じのマグナにホストクラブのまねごとさせて。と、チラリと己の家庭教師を見る。綱吉のベッドに腰掛け、優雅にエスプレッソのカップを傾けていたリボーンは教え子の視線に顔を上げると肩をすくめた。
「いいんじゃねーか?」
投げやり感満載の回答に、綱吉は「うーん」と悩みつつも、どこかわくわくしている様子のマグナに苦笑いを浮かべる。
なんだかんだ言ってマグナも楽しみなのだろう。この楽しそうな横顔を曇らせるのは綱吉もちょと出来ない。
しかし、残念ながらマグナが文化祭に参加することはなかった。
*
―――マグナ……
闇の中で、ただ一人を呼び、求める。大事なのは一人だけだった。必要なのも一人だけだった。
大人たちの冷たい眼差しの中で、お互いだけが大切だった。
―――マグナ……
だからこそ、守りたかった。傷ついてほしくなかった。たくさん傷ついてきた彼だから。
その為の力を、手に入れたはずなのに。何故彼は今自分の傍にいないのだろう。
―――……マグ、ナ……
どこへ行ってしまったんだろう。大切な弟。大事に、大事に守っていたのに。
決して傷つかないように。辛いことなど何もないように。
自分の手で、大事に守って来たのだ。外の世界は、決してあの子には優しくないから。
「マグナ…」
外が騒がしい。自分からあの子を奪った連中。決して許さない。
迎えに行かなければ。きっとあの子は泣いているはずだから。
迎えに行って、今度こそ、守るのだ。
―――その為の力ならば、自分は手に入れたのだから。
作品名:悪魔と唄えば / リボツナ 作家名:まさきあやか