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北野ふゆ子
北野ふゆ子
novelistID. 17748
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【APH/海賊パラレル】海賊王と東洋の秘宝・序【セカ菊・朝菊

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 太い声が飛ぶ。
「アイサー、キャプテン」
 一際体躯の大きさが目立つ男の叱責に、銃を持つ男は従順に応えた。
(あの人が…?)
 あれが、異人達を束ねる頭だろうか。菊は駆け出す。
「狼藉はやめて下さい!」
 細い両腕を懸命に広げて、大きな異人達の前に立ちふさがる。
「………」
「………」
 喧騒が止んだ。砂浜に降り立った異人達は、みな一様に大きな目を更に見開き半口を開いて、小さな少年を見つめる。直後、
「わははははは」
「がはははは」
 一斉に笑い出した。
「??!」
 びくり、と菊の両肩が震える。腹を抱えて笑い続ける異人達は、聞き覚えの無い言葉を口々に発して笑いあっていた。
「あ~…ケッサクだな」
 笑い飽きた一人が、菊に近づいた。蟷螂のような痩せた顔の男。皮で出来た上着の裾に手を突っ込んで、腰に巻きつけてあった小型銃を取り出す。それが「銃」というものである事を菊は知らない。だが、村人一人を殺した道具と同じものである事は理解できた。それが今から、自分を殺そうとしている事も。
「おい、やめとけ」
 太い男の声がそれを止める前に、
「グッナイ」
 蟷螂男の手が引き金を引いた。
「!」
「―え」
 外すほうが難しい射程距離から発射されたはずの弾は、菊を大きく逸れて背後の岩に当たった。砕けた小石や砂が空しく風に散る。「あ、あれ?」と蟷螂男は硝子のような目を白黒させて菊と銃を交互に見やった。
「……」
 頭と思われる太い声の男も、情報の分析に少々の刻を要しているようで、歯の奥に物が挟まったように顎を動かしていた。だが三秒後には決断し、
「ガキは放っておけ、行くぞ」
 部下たちに指令を送り自らも小船を降りて砂浜へ立った。
「アイサー、キャプテン」
 同じ掛け声を発して異人たちは菊の脇を通り過ぎて村の方へ歩き出す。
「あの!」
 必死に異人たちの裾を引くが「はいはい」とあしらわれてしまう。
「死にたくなきゃ、ここで魚でも釣って待ってな」
 頭の上に、誰かの手。
「え??」
 上向くと、頭らしき男が菊の頭に手を添えてこちらを見下ろしていた。言葉は分からないが、言いたい事は何となく分かる気がした。子供は引っ込んでろ、とでも言いたいのだろう。
「村へ行くんですか?!何しに行くんですか!?乱暴はやめて下さい!」
 一方、懇願する菊の言葉は異人の耳には呪文のようにしか聞こえておらず、東洋人の小さな子供が子犬のように吼えているのだという程度にしか受け取られていなかった。
「バイバイ、ボーイ」
 意味の分からない言葉を残して、異人は菊の頭から手を離し、先を行く部下達を追って歩みを進めた。
「にーに……」
 どうしたら。
 どうしたら。
 どうしたら。
 疑問だけが菊の脳裏を渦巻く。耀に報せに行くべきか。いや、それよりも。
「だめです!」
 この異人たちを行かせてはならない。
「だめです!!」
 村へ向かう異人たちの背中に向けて、菊は腹いっぱいに叫んだ。
「!?」
 最初に頭が振り向く。見ると、波打ち際に立つ小さな東洋人の子供の足元から、白い砂が巻き上げられている。風が渦巻いて旋風となり、一秒ごとに強さが増していた。見上げればいつの間にか青天に唐突すぎる暗雲が立ち込め始め、空気が急に冷え始める。
「な、何だ?」
「ワオ」
 異人たちが足を止めた直後、
「Hit the dirt!!」
 叫んだ頭が砂に伏せる。号令に一瞬遅れた異人たちの頭上に次の瞬間、骨までを焦がし尽くす雷電が直撃した。
「うわ!!」
 異人たちの悲鳴。眩む目を無理やり開けて辺りを見れば、寸時前まで隣に立っていた仲間が、炭と化して砂に埋もれかけている。
「―マィガッ……」
 唖然とする異人たちは、恐る恐る顔を上げた。小さな体の東洋人の少年の姿がそこにある。頭上に暗雲を、背後に時化た海を、足元に旋風を従えて。
「こいつ、モンスターか?!」
 ひぃ、と喉の奥で引きつった悲鳴を漏らした部下に、頭が「しっ!」と短い叱咤を飛ばす。
「よく見ろ」
 異人の頭は、冷静だった。
「…はぁ……はぁ……っは……」
 少年の小さい体が、荒い息遣いに合わせて上下している。風は徐々に収まり、暗雲は散り、海も静けさを取り戻し始めていた。
「や……」
 そのうち、少年の細い足元が覚束なく揺れ始める。
「村…助け……」
 か細い声で何かを呟いたのを最後に、少年の体ががくんと大きく揺れ、そして背中から砂浜に倒れ落ちた。
「……」
「え、くたばったのか?」
 部下たちが顔を見合わせる中、頭の男は倒れた少年に歩み寄る。
「キャプテン、危ないですよ!」
 当然の心配をする部下達に「大丈夫だ」と短く答え、だが慎重に、用心を忘れず一歩ずつ、歩を進める。
「―ん?」
 少年の足元まで近づいて、気づいた。
 白樺の枝のような足首に光る、何かの存在に。
「宝石、か」
 最初は緑、顔を近づけてみると青、更に近づけてみると黄色にも見える宝珠が、少年の足首に巻きついた鎖細工の中に埋め込まれている。
「どれ、―」
 手を伸ばす。指先が触れた瞬間、
「ッ!」
 強烈な痛みが神経を走った。白い火花が散る。
「キャプテン!」
 部下達が集まる。
「それに触るな!」
 咄嗟に怒鳴ると、みな従い足を止めた。
「―ァウチ…」
 手を胸に抱きこんで痛みをやり過ごそうとするが、なかなか痺れが取れない。悔し紛れにらしくもなく呟いてみるが、効果があるわけもなく。宝珠が直に肌に触れているはずの少年は、ぐったりと砂に寝込んだままだ。
「……風…雷…波……」
 少年を見つめ、頭は呟く。不気味な輝きを放つ宝珠と、対照的にあどけない面持ちの少年を交互に見つめるうち、答えがひらめいた。
「『東洋の秘宝』」
「え!」
 頭が呟いた「解」は、部下達を驚かせるのに十分だった。
 雨を降らせ、雷を落とし、風を読み、地を揺らし、太陽を呼ぶ力を持った「東洋の秘宝」と呼ばれる「モノ」。船乗りや商人らの間で実しやかにささやかれる極東の宝―だが誰も目にした事のないそれが、宝石なのか、はたまた別の存在なのか、誰にも知りえない。
「この宝石がですか?」
「それとも、まさかこのガキが…?」
 部下達の疑問は、そのまま頭の疑問でもあり。
「……わからねぇな」
 分からなければ、逆に解決法は明確だ。
「ガキごと連れて行く」
 頷くや否や、頭は片腕で少年の体を持ち上げた。小麦の袋よりも軽く、丸めた絨毯よりも細い体は、難なく海賊の肩に担ぎ上げられる。
「でも、そいつ化け物ですぜ?!」
「なぁに。菓子でもやっときゃ大人しくなるだろう」

 聞き慣れぬ言語を聞きながら、
(にーに…湾ちゃん…香くん…勇くん……)
 遠ざかる意識の中で菊は何度も家族の名を繰り返していた。




 世界を手に入れる力を得る事ができる「東洋の秘宝」。
 それは、極東の小さな国の、小さな海辺の村に在る。

 新しい噂は瞬く間に、西へと広がっていった。