二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
北野ふゆ子
北野ふゆ子
novelistID. 17748
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

【APH/海賊パラレル】海賊王と東洋の秘宝・序【セカ菊・朝菊

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 



 その日、菊は浜辺に貝を拾いに来ていた。大好きな浅蜊の味噌汁を、作るため。小脇に竹籠を抱えた白い水干姿の、一見して幼子に見える「気配」が、浜辺を見下ろす絶壁から軽やかに身を躍らせた。
「?」
 その時、海風に混じって吹いた一陣のつむじ風に気づいて、浜辺で同じように貝を拾っていた村の幼子達が顔を上げた。
「菊狐さまだ~」
「菊狐さまがいらしゃった」
 小さな魚籠や竹籠を手に、膝上まで水に使っていた子供たちが口々にそう言うと、大人たちは手元の作業に意識を向けたまま「そーけそーけ」と空返事を寄越す。唐突なつむじ風を、村では「菊狐の駆け足」と呼んでいる。昔から。
「菊狐さまも貝を採りにいらしたの?」
 幼子の問いかけに、白い水干姿の菊は「しーっ」と小さな人差し指を口元に当てて微笑んだ。人里に降りる時は必ず、見つからないように姿を消すのが村の守り神たちの掟。しかし幼い童には効かず、こうして姿を見止められてしまうのだ。
「ほれ、終わったら遊びに行っても良いから、菊さまとしゃべっとっらんで貝を拾いや?」
 大人は相変わらず、手元の作業に意識を向けたまま、子供達をやわい口調で嗜める。幼い頃は自分達にも「菊さま」が見えていた事を、大人たちは忘れてしまうのだ。
「はーい」
「へーい」
 名残惜しそうにも聞き分け良く、子供達は再び水の中をまさぐり始める。菊もまた、少し離れた入り江の隅で貝拾いを始めた。
「ひとーつ尾をふりゃ大雨ざあざあ、ふたーつ尾をふりゃ大風びゅーびゅー」
 古い時代から伝わるわらべ歌を口ずさみながら、細い指先で器用に砂の下から貝を探り当てる。
「みーっつ尾をふりゃ大波ざんぶらこっ」
 貝の汁は兄弟妹たちの大好物。たくさん獲って帰ればきっと喜ぶ顔が見られる。そう思うと、手の動きも軽やかになるものだ。一粒拾うたびに一人一人の顔を思い浮かべながら。
「よーっつ……?」
 口ずさむ歌を止めて、菊は顔を上げた。
「風が…?」
 海から村へ吹き込むそよ風に、何か異質な匂いが混在しているのだ。籠を小脇に抱えたまま、菊はつま先立ちで海の向こうを眺める。そんな「菊狐さま」の様子に気がつき、子供達も手元から顔を上げた。
「どうした?」
 一斉に顔を上げた子供達に気づいた大人も、屈めていた背中を伸ばして次々立ち上がる。
「あれは、お船かの?」
 一人が水平線を指差した。入り江を囲む環状に連なる岩々の向こうに、黒く大きな影が見えたのだ。少しずつ、こちらに近づいているようだ。
「ずいぶんと大きなお船じゃ」
「お上んとこのお船じゃろうか?」
「しかしなぜこげな小んまい村に?」
 大人たちがみな仕事を中断して集まり、波の向こうを指差している。どうやらただ事ではないようだと、子供達も落ち着きなく顔を見合わせる。
「お船?」
「お船だって」
「お上のでっかいお船だって」
 そのうちの幾人かは好奇心を宿した目で、大人たちの後ろから船影を眺めていた。
(…お上?)
 菊は籠を砂浜に置いて、波間に浮かぶ岩場に飛び乗った。岩肌の上で爪先立ちになって、水平線に浮かぶ影を見つめる。
「うぅん…」
 菊はもどかしそうに足元を一瞥する。白く細い足首には、小さな宝珠が括り着けられている。これは数百年も前に、育ての兄である耀が菊に施したものだ。これがなければ、あのお船の元へ簡単に飛んで行けるのに。
「…違う」
 船影へ、菊はかぶりを振った。
 あれは、違う。お上の船ではない。もっと何か焦げ臭い、すえた油のような臭いがする。とても禍々しい気が風にのって流れ込んでくる。
「―逃げて、逃げて!」
 菊が弱弱しく叫ぶ。
「菊さま?」
 気づいた子供が一人、二人。
「とーと、かか!
「逃げなさいって菊さまが言ってる!」
 子供たちが大人たちの裾を引く。
「え?」
 だが大人たちの反応は鈍く、子供に裾を引っ張られながらも近づく船の動きをただ興味深げに眺めているだけだった。
「逃げて、逃げて!」
 術を解いて姿を現した菊は、大人たちのもとに駆け寄り叫ぶ。
「ねえ、逃げて!」
「おやま。どこの子だい?」
「立派なお船だのう」
 だがその子供のような姿では、村人らの注意を引くことができなかった。
「うぅ…ん」
 菊は行き場の無い歯がゆさに唇を噛む。足首の宝珠が無ければ、大人の姿に変化したり、雨風を降らせてやれるのに。そうすれば大人たちは村へ引き上げてくれるのに。
(どうしよう)
 菊は船影と、村の方を交互に見やる。兄の耀にこのことを報せるべきか、それとも何とかして先に村人達を逃げさせるべきか迷う。こんなことは初めてなのだ。
 どのような動力で動いているのか、船はあっという間に近づいてきて、浅瀬の手前に停まった。船体を塗る黒と、蝶のように大きく広げられた帆の白の対比が目に眩い。と同時に、とても禍々しく見えた。
「…駄目……駄目…」
 かたかたと歯の根が噛み合わない。小山のように視界を塞ぐ大きな船を見上げ、菊は体中を走る震えと戦った。
「降りてこられるみたいだぞ」
 村人の一人が言う通り、帆が閉じられ、何やら船上から騒々しい気配が感じられる。碇が落とされ、縄橋子が落とされ、人影が次々と姿を現した。
「なんだ?」
 そこでようやく、村人達は異変に気づく。
「て、天狗!」
 一人が叫んだ。震える指が示す先には、船から次々と小船に降り立つ人影たち。大きな体躯、見た事の無い装束、稲穂のような色の頭髪を持つ人影たちは、各々が手に武器を携えていた。
「異人じゃ!」
「異人?」
 噂にだけ聞いたことのあるそれは、海の向こう、遠い西から来たという人々。
「村長さ呼んできたほうが良いじゃろうか」
 異人達を乗せた小船が何艘も近づいてくる。だが村人達はまだ戸惑いの面持ちを見合わせるだけで、その場から動こうとしなかった。
「逃げて、逃げてぇ」
 その間も菊は懸命に大人たちの裾を引くが、誰も気にとめてくれない。子供達も菊の様子に困惑しながらも、大人たちの後ろから異人たちを眺めていた。
「しかし…何しに来なさったんじゃろうか」
 そう呟いた村人の問いに、

 パァン!

 一発の銃声が応えた。
「ぎゃっ!」
 くぐもった悲鳴と共に、波打ち際に立っていた村人の一人が弾けとんだ。
「!?」
 胸元に空いた穴から噴出した血が、白い砂浜を汚す。どう、と大の字を描いて倒れこんだ体。
「きゃああああ!」
「うわあ!」

―賊じゃ

 一人が叫び、一斉に村人達が動いた。砂と水に足を取られながら、子供の手を引き、村に向けて駆ける。
「!」
 また銃声。弾は子供を連れた女の脇に逸れ、白い砂が飛び散った。
「っはははは!」
「ぎゃはははは」
 雄雄しく下卑た笑い声がいくつも重なって近づく。
「猿どもが逃げてくぜ!」
「さすが逃げ足は速いな」
「足を狙うか」
 銃を放った男がすかさず三発目の弾をこめて構える。銃口は、幼い少年の背中を狙っていた。
「危ない!」
 菊が一睨みすると同時に銃口が火を噴く。鉛玉は大きく弾道を外れて開きを干していた台に当たった。
「アレ?」
 撃った男は頭上に疑問符を浮かべて首を傾げるが、すぐに「まあいいや」と四発目の弾を込めた。
「ここで弾を無駄遣いするんじゃねぇぞ!」