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【C79】Re:Re:in【大問再版+αな本のサンプル】

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2.救生





「あなたを待っていた。ずっと、ずっと待っていた」
 イーノックは目を細め、中空を見上げる。青い瞳は澄んだ輝きを宿して、まるで神の座する天を映したよう。それはすべての救済を掲げたこの旅の始まりから少しも変わらない。
 しかし彼の瞳がそうあっても天は今、神の怒りに燃え尽くされ紅蓮に染まっている。紅蓮の向こうは真っ暗闇。神はそこから地上を、ただひとり残るであろう人間を、そして堕ちる大天使を見ていた。
「ああ! おまえを此処へ喚んだのは間違いだった! 所詮、人間は人間、愚かな人間、私達の足下にも及ばぬモノ! 下賤の輩! イーノック、おまえだけは違うのだと思っていたのに! 私の望みに叶う者を見つけたと思っていたのに!」
 雨粒の代わりに火の粉が降り注ぐのは神が嘆いているからだ。神は涙を流している。イーノックの選択に嘆き、悲しみ、また激しく怒っているのである。涙は怒りの気を含んでいるゆえに、地上を潤すどころか焼け野原にしてしまった。
「イーノック! 時を費やし育ててやったのに! 今のおまえが在るのは私の施しあってこそと解っているだろう!」
「もちろん、わかっている」
 瞳に黒衣の天使を映したまま、イーノックが答える。表情は周囲の荒れた景色と対照的に、不思議なくらい穏やかだ。
「私は天界へ喚び寄せられてから、貴方に多くの知恵を授けられた。書記官という重大な職務を任せられた。そして今は、地上の人間を救う使命を帯びている。けれど」
 瞼を伏せる。なびく髪と同じ金色の睫毛が影をつくった。
「私が救いたいと思うのは、すべてじゃあなかった」
 言いながら開かれた目は天を堕ちる人形(ひとがた)ばかりを見ているから、その向こうは赤黒い背景でしかない。そこへ稲光が差す。嘆きも悲しみも、どれだけ言葉にのせたところでイーノックにはもう届かないとようやく悟った神に残ったのは怒りだけ。怒りは天を裂く閃光と化したのだ。
 神は思う。天を裂き、地を裂き、終わりには堕ちた天使と人間をも引き裂いてしまえ、と。