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賽を投げたのは

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チョコレートが食べたい。

ふとそう思ったのはもう針が12を指す時で、僕はその時丁度チャットでの会話がひと段落した時であった。この時間帯に物を食べるというのは、僕には抵抗があったけれども、一度脳裏に浮かんでしまったら抑える事ができなかった。
これはもうしょうがない。
人間の三大欲求には「食欲」という、三大のひとつに収まってしまう欲求なのである。体が望んでいるのである。

そう自分に言い訳をして僕は財布の中身を頭の中で確認した。確か500玉円はあった。実家から反対されつつも上京し、それに仕送りまで送ってもらっている身なのだからできるだけ出費は抑えている、と思う。少しくらいは自分に甘くしてもいいよね。
5月半ば、さすがに夜12時過ぎて居るので外は肌寒いだろうとTシャツのうえにパーカーをはおる。ポケットには僕の生活には欠かせない携帯電話と、同じくらいかかせない、というより欠かしたら大変な財布をいれた。

外に出るとそれほど寒くも無く心地よい暖かい風が吹いていた。今にも底が抜けそうな赤茶色に錆びている階段を下りていく。下にチェーンで繋いである赤い自転車の鍵を開けた。
学校には徒歩で登校しているが、近くのスーパーであったりコンビニであったり、書店に通うにはこの自転車を使っている。交通費が浮くので地味に助かっている。これは僕の進学祝いを使って買ったのであった。カゴの部分はシルバーで、晴れの日なんかに乗ると日光を反射してキラキラ輝いてきれいだ。だから、結構気に入っている。
「なんで赤なんだ?」と、以前正臣に聞かれた事があった。それに僕はなんとなくって答えた気がする。生まれてから今生きているこの瞬間の間に一度はみんなこう、ビビっとくる瞬間があると思う。それは多分俗に言う一目惚れってやつで、僕はこの赤い自転車に一目惚れしたのである。物に対して一目惚れを使えるのかどうかは知らないけど。正臣に一目惚れと言うのはなんだか照れくさかったし僕はロマンチストとかそんなキャラじゃないので「なんとなく」だ。そう、なんとなく。
それは置いといて、僕はそのお気に入りの赤い自転車に乗って、深夜の夜道を颯爽と駆けていったのであった。

作品名:賽を投げたのは 作家名:よしきり