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賽を投げたのは

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こんな時間に開いていると言ったらコンビニしかないので、少々値段は高いけれど我慢して7の文字が印象的で全国的に有名だろうコンビニに寄ることにした。ドアから入ると店員の気の抜けた挨拶が聞こえてくる。店内には人はまばらで、立ち読みしている男の人が入ってきた僕をチラッとみた。
他に目的も無いしお金をあまり使いたくはなかったので、まっすぐ菓子類が売られている棚に向かう。安くてそれなりに満足できるかなと思い、赤い箱に入っている板チョコを買うことにした。パッケージによると母の日が近いらしい。実家に電話でもしてみようかな、なんて。

レジには店員は一人しかおらず、先に会計をしてる人がいたのでその人の後ろに並んだ。その人は先ほど僕をチラッと見た立ち読みしていた男性で、さっきは気付かなかったけど中々、いやとてもかっこよかった。髪の毛は一度も染めてないような黒で、服装は…何故かファー付きのコートだった。寒がりなんだろうか。全身真っ黒で、服装はなんだか不思議であったけど似合っていた。心なしかいい香りがする。正臣も香水を付けていたけど、彼とは違う、こう大人な香りだった。

男の僕から見てもカッコいいのだから、女性はきっと彼を見たらときめいてしまうのだろうな、と思った。園原さんもかっこいいって思うのかな。生まれてこのかた女性にもてた事のない僕は勝手に考え、勝手に落ちこんだ。ふと、そんな彼は何を購入したのだろうと思い、カウンターをこっそり覗く。雑誌だ。芸能人のうわさ話や熱愛だの自宅デートだの書いてあった。そういうのに興味があるらしい。

彼が会計を終えたので、僕の番なった。彼はコンビニの袋をガサガサいわせながらドアから出て行った。それを横目で見ながら、レジに表示されたお金を払う。レシートとお釣りを貰って、財布に入れる。心なしか財布が軽い。店員の気の抜けた感謝の言葉を聞きながら、僕も袋の騒音を奏でながら外に出た。


強烈な破壊音が目前で生じる。初めて聞いた、物体と物体がぶつかり合う、なんというか大変重い物をコンクリートにぶつけたようなそんな音だった。状況からいってそういう感じであった。僕の瞳から見えた景色には、そう見えた。
コンビニの駐車場に、コンビニの前に設置してあるゴミ箱が落ちている。大破していて原形をとどめていないけれど。
ゴミが散乱している手前にそのゴミ箱を破壊した男が立っていた。長身で、何故か黒いスーツのようなものを着ている。カクテルを作る人の恰好で、多分バーテンさんだ。髪の毛は金髪で、きれいに脱色されていた。

「イィーザーヤァ…手前なんでここにいんだよ?あ?」
金髪のほうの彼は、声だけでも人を殺めることができそうなそんな声を出していた。びりびりと、体内に渦巻いている憎しみを腹の底から出している感じだ。
彼が誰に対してそんな声色をだしているのか、その方向を見ると、数分前に見た全身真っ黒の男の人がいた。口の端がつり上がっていて、なんとなく不思議の国の猫を彷彿させた。

「いきなり凶器をぶん投げてくるなんて、しずちゃんおっかなーい!器物破損でさらに営業妨害。やだなー、しずちゃんったらそんなに警察にやっかいになりたいの?手、貸してあげよっか?」

「死ね死ね死ね。避けんじゃねぇよ蚤虫が。てめぇの存在自体がゴミだから、ゴミ箱に入れないとな?ゴミはゴミ箱に捨てるってきまりだよな?」

と言って、金髪の彼は燃えないというプレートがついているゴミ箱を持ちあげている。あのゴミ箱って軽いものなんだっけ?と僕は思った。どうやら金髪の人はしずちゃん、という名前らしく、全身真っ黒の人はいざや、という名前らしい。

再び破壊音。駐車場はもうゴミだらけだ。燃えるのも燃えないのも混ぜ合わさっている。僕はというと、何もできずにコンビニの前で突っ立ていた。ゴミ箱の脇に停めておいた(もうゴミ箱はその場所には無いのだけれど)自転車を窺うと大丈夫、無傷だ。こう喧嘩を前にすると何もできない。逃げ出したいけど、自分の大事な自転車を見捨てる事なんてできないし、この惨状を突っ切って何事も無いかのように帰っていく神経も僕には無かった。

「あぶねー。しずちゃんってノーコン?ださっ。知ってたけど。」

「手前が避けるのが悪いんだろうが。早く死ねっ!」

作品名:賽を投げたのは 作家名:よしきり