賽を投げたのは
次の瞬間、金髪の人の頭上に僕の自転車と同じデザインのものが持ち上げられている。ハンドルの部分がひしゃげていた。まさか、そんなね。でもほら。あれ僕のじゃないかな。
うそでしょ。
振りかぶられている。
ダメダメダメ、それがなくなったらスーパーの重い買い物袋を、つい買いこんじゃう本を、コンビニに颯爽と駆ける移動手段をなくしちゃうじゃないか。待ってっ待って待って。
振りかぶる。
誰がって、
何が起こったのか分からなかった。金髪の人の頭に、コンビニの袋が直撃していた。中には赤いパッケージのチョコが入っている。角が当たったら痛そうだ。まさか、そんなね。でもほら。あれ僕のじゃないかな。デジャヴ。
誰がって、僕が。
「あ?」
こちらに気付いた金髪の人を見た瞬間。あ、僕死ぬかもしれないって思った。眼が血走っているし、人の血管ってあれほど浮き出るものじゃない。
動けなくなる。蛇に睨まれた蛙。
眼をそらせられない。視界がぶれてきた。涙がにじんできた、もういい年した男の子なはずなのに。笑えないのに膝が笑う。後悔先に立たず、だ。
これが僕と平和島静雄と折原臨也との初めての出会いだった。出会い方は最悪だったけれどもなんだかんだで長く付き合うことになった。
賽は投げられたのであった。
僕が投げたのはチョコレートだったけど。