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誰も傷付かない恋

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俺の、特別


「なぁ、帰ろうぜ」

前の席に座っている親友に声をかけると、振り返った顔がこくりと一つ頷かれた。
ただそれだけで嬉しくなるなんて、相当オカシイのは自覚しているんだけど、こいつは特別なんだから仕方ない。

鞄に必要な教科書だけを詰めこんで準備していると、斜め前からの視線に気が付いた。

「ん?ああ、天城か。そうだ。天城も一緒に帰んねぇ?」

「えっ…、あ…私はいいや。千枝と約束してるんだ」

クラスでもかなり上位ランクの女子である天城と話しているだけで、周りから羨望の眼差しが痛い程突き刺さる。
そっか、最近じゃあまりに普通に"友達"してるから忘れてたけど、競争率高いんだよな、天城って。

「そか。じゃあ、また明日な」

「またな」

「…っ、うん!!」

頬を赤らめて、親友だけにはにかむ笑顔を見て、俺はピンと来たね。
おいおい、水臭いじゃないか。なぁ、相棒?













ちょっと寄り道しようという提案は、簡単に受け入れられた。
河川敷のベンチに座り、買ってきたコーラを差し出すと礼と共に手が伸びてくる。

あと少し、という時に俺はすいっと缶を手元に引いた。
空振りした手を一瞥し、それから俺を見てきた親友に笑みを零す。

そう、これはちょっとした意地悪だ。
親友なんだからなんでも話して欲しい、なんて言わないけど、さすがにスルーされるのも寂しいものがあるんだから。

「お前、天城と付き合ってるんだろ」

にんまりと笑いながら、良かったな、と缶を渡す。
そりゃあ、彼女が出来たなんて浮かれながら報告するタイプには思えないけどさ。それでも、祝う事くらい許してくれてもいーんじゃねぇの?

「ああ、その事か」

「っかー!こんな時もクールだねぇ。その余裕に女子がキャーキャー言ってんだぜ?なぁ、センセイ?」

茶化すように言えば、困ったような笑い顔。
困ったように見えても、実は全然そうじゃない、そんな顔。

俺はお前のそんな表情が、はっきり言って結構好きだ。
なぁ、やっぱお前は違うよな。他とは違う。さすが、俺の特別だ。

「特別に想っている相手は別に居るからな」

「…はぁ?」

言っている意味が分からない。
眉を潜めると、同じ言葉がもう一度耳に届いた。

「好きな人は別に居る。でも、その人とは付き合えそうにない」

一瞬、これは夢ではないかと頬を抓りたくなる。
目の前の男から、発せられてはならない言葉が聞こえたからだ。

「つまり、なんだ?天城の事…好きでもないのに付き合ってんの?」

その"特別に想っている相手"の代わりに?

「少し違うけど…。まぁ、恋愛感情で好きなわけじゃない」

「なっ…んだよ、それ。天城が本気だって、見れば分かるじゃねぇか!お前、そんな最低なことするヤツなのかよ?!」

他に好きなヤツがいるのに、手が届かないから自分を好きな女と付き合う?

他の誰かが自慢気に話していたなら、俺は苦笑しながらスルーする事も出来ただろう。勝手にやって、痛い目みやがれと嘲笑う事だって出来た。でも、目の前のコイツにだけは、そんな事をして欲しくなかった。

「…怒ってるのか?」

「怒るさ!決まってんだろ、天城だって大切な仲間なんだ!それが弄ばれてるなんて、面白くねぇ!」

「――天城の事が、好きなのか」

それは、疑問形ではなく、確信の響きを持っていた。
頭の中が、一瞬赤に染まる。

「…っ!!」

衝動的に、目の前の男に殴りかかる。
恨みがあったわけではない。むしろ、世界で一番信頼していた親友だ。

過去形ではなく、今もそう思っている。
だからこそ、許せなかった。気付けば、右腕を振りあげていた。

「……なんでだよっ!なんで、そんな事するんだよ!!」

泣きそうな叫びは、殴った男のものではない。
そう、他でもない俺の口から零れていた。

目の前がじわりと滲む。
殴り飛ばした男は、赤く腫れた頬を抑えながら、血が滲む唇を舐めている。

その目には、怒りも、恐れも、失望も、何も浮かんではいなかった。
どれもが、欲しいものではなかったが、目前の無表情が一番キツいのだと赤く染まった拳を握りしめながら考える。

「―――お前は、それでいいのかよ…」

ぼろぼろと泣くのは格好が悪い。
分かっているが、涙を止める事は出来なかった。


傷付けられたのは俺ではない。
"友達"に痛いと泣きつかれたわけでもないのに、俺は勝手に怒って、殴りかかった。

「天城の事が好きなのか」なんて的外れもいい所だ。
俺はただ、親友が他人を傷付けている――その事実が、耐えられなかった。


作品名:誰も傷付かない恋 作家名:サキ