誰も傷付かない恋
開き直って、愛を囁く
その時の熱よりも、はるかに熱い。
痛む頬を抑えれば、唇から血が流れ落ちる。
容赦がない。
けれど、その瞳は俺が受けるべき感情を有していた。
「―――お前は、それでいいのかよ…」
ぼろぼろと泣きはじめたお前を、俺は抱きしめてもいいのだろうかと考える。
弾かれるのが恐ろしいのではない、俺の感情のままの行動が――また、誰かを傷付けないかと考えて臆病になる。
それでも、我慢が出来なかった。
その肩に手を伸ばせば、びくりと身体が揺れ、嗚咽を止めない身体が自分から倒れこんでくる。
「……そ やって 誰にでも優しいから、期待させんだ っく、この…バカ」
「お前が好きだ」
「……はぁ? だって、おま…天城……は?」
涙さえ忘れるくらい、ぽかんと呆けた顔にキスがしたい。
「おまっ…何してんだ!!」
「何って、キス」
「馬鹿か!お前は、天城と付き合ってるんだろうが!!」
「付き合ってないよ」
真っ赤に染まった頬に手を添えて。
一瞬身じろぎしても、逃げない事に心から安堵する。
「振られた」
「…うそ、だろ」
「正確には、振ってくれた、かな。他に好きな人が居るのに付き合えないって」
「……? お前は、誰が好きなわけ?」
ああ、もう。
この鈍い男はどうにかならないものだろうか。可愛いけど。
「だから、お前」
「あー、俺ね。はいはい…って、俺ぇ?!」
「うん。陽介の事が、めちゃくちゃ好き。一番好きです。付き合って」
誰も傷付かない恋なんて、俺には無理だった。
お前が好きで、好きで仕方がないんだ。
「………それ、マジ?」
「うん、マジ」
「お前、淡々としてるからわっかんねーよ!もっと、それっぽい雰囲気で…その……」
真っ赤な顔を俯いて隠してしまったのが惜しい。
顎を手で掬い、瞳を合わせる。うん、可愛い。
「返事はキスがいいな」
「―――っ、に言ってんだよ…バカ」
「うん。バカでもいいよ」
「…………………っ…!ほら、これでいいかよ?!」
やけになった一瞬のキスは、それはそれで愛しいのだから仕方ない。
うん、と頷けば、これ以上赤くはならないだろうと予想していた目前の顔がさらに赤く染まる。
「―――っまえ、その顔…マジ反則……」
陽介の方が、可愛いよ。なんて、言ったら殴られるだろうな。
まぁいいよ。今日は殴られる日だって、とっくに開き直ってるからね。
誰も傷付かない恋
(なんて、俺には出来なかった)
end