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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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プラトン的愛の構造 前編

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たった一人で見つめる暗い海。
遠くに見える漁火がハタハタと揺らめく。
浜辺に座って、何故そんなものを見ている自分がいるのか?
どうやってここに来たのかも思い出せない。
降り始めた冷たい雨が、我慢しても零れ落ちる涙をごまかしてくれる。



愛ってなんだろう?恋するってどんなことだろう?
ドキドキして。トキメイテ。
だから。
触れたいと思い、触れられたいと思ったのに。


左の頬に今も残る感覚が、全てを否定した。



「忍足が好きだ」と確かに言ってくれたのに。
優しい跡部の瞳が俺を見つめていたから、俺は跡部の全てを信じたのに。


その手をそっと握り締めたら、ビックリした顔をして。
確かに『違う』と言った。
『違う』ってどういう意味なのか、その時はまだわからなかった。





それからも、加速度的にドンドン跡部を好きになって。
怖いくらいに跡部を好きで。
もっと跡部の傍にいたいと思った。


だから・・・・
触れあいたかっただけなのに・・・・・





思いっきり、左の頬を叩かれた。



『男同士の愛は精神的なものだから、価値があるんだ』と跡部は言った。

肉欲を伴わない精神的な愛。
純愛ゆえ、お互いを認め合える愛だからこそ崇高だと。
崇高な愛。ってなに?



じゃあ、俺の愛なんて・・・最低なんや。
そうやろ?俺は跡部に触れたくて、触れられたくて仕方が無かったんやから。
叩かれて・・・当然なんや。
俺って汚らしいんや。跡部にとって。


跡部にとっては愛という概念が大切なんや。
精神的な愛の構造が、最高の愛のかたちだと。

俺は、たとえ愛するという行為に快楽が伴わなくても。
もし、最高の苦痛を与えられたとしても、跡部に触れられたいと思う。



お互いに好きあっていても、愛の形が違っていたら。
求める愛が相容れるものなら・・・
それを愛してると言えるのか?





俺は跡部には相応しくないんや。
跡部に相応しくないんなら、消えてなくなればええ。
このまま消えてしまえば。

消えたら、ええんや。

穢れとる俺なんて・・・







プラトン的愛の構造
  
          -The structure of the platonic love-






えっ?
後ろから、そっと優しく抱きしめられた。

「どうしたんだよ、忍足」
聞き覚えのある少し舌足らずの高い声が耳元囁くように問う。
「なんで、ジローがこんなところへおるんや」
「忍足がすっげぇ酷い顔して歩いてたから、ここまで付いて来ちゃったんだよ」

「こっそり人の後つけるなんて趣味悪いで・・・」

「忍足の事が心配だったんだから、仕方ねぇだろ」
慈郎が心配そうな顔をしてこちらを覗き込む。

その顔を見た途端に。
涙が・・・一筋ツゥーと糸のように頬を伝っていった。
なん、俺。まるで女みたいやん。
頬の涙を人差し指の背でふき取ると、小さな身体が俺の震える身体をまるで守ってくれるように抱きしめた。

その慈郎に、声にならない声で問う。





「ジローは・・・俺のこと抱けるか?・・・」





雨で張り付いた髪の毛を、柔らかい小さな手がかき上げてくれた。
その手が頬を伝い、唇をなぞって、離れていった。
その代わりに、俺に触れた、雨に濡れた冷たい唇。

口付けと言うには、あまりにあっけない。唇を掠めていったキス。



でもその唇が囁いた言葉に、ドキリとした。



「忍足が、俺のこと少しでも好きになってくれたら、俺は忍足のこと」


「抱けるよ。ううん、抱きたい」
そう耳元で囁かれた。



耳の奥に届いた言葉がまだ消えぬうちに、まるで何も無かったように優しい瞳で見つめられた。

「さあ、忍足帰ろ。こんな雨に濡れてたら、風邪引くよ」




でも俺にとっては、雨が。
冷たい雨が気持ち良い。
その雨に何もかも、持ち去って欲しかった。



慈郎の自分を気遣ってくれる優しい手に肩を抱かれたまま、乾いた心を連れて歩く。
触れ合う肌の温かさ。
他人の腕がそんなにも温かいものだと忍足は知らなかった。




「今日忍足のとこ行っていい?」
ぼっーとする頭で、コクリと頷くしかできなかった。

暗い闇の中に引き込まれそうで、とっても一人で夜を越せそうに無かったから。





拒絶されたのでは無い。イヤ拒絶してくれた方が楽だった。
俺という人間を否定してくれた方がマシだった。
それなら諦められたかもしれないのに。


「忍足が好きだ。愛している」
そう言った跡部の声が心の中を抉(えぐ)っていた。

肉欲の無い愛が純粋な愛?
・・・純粋な愛が、本当の愛。








自分のことは後回しで、タオルで俺の髪の毛を懸命に拭いてくれてる慈郎。



「ジローも濡れてるのに、自分を拭けや」

「いいから。お風呂にお湯が入るまでに風邪引いたらダメじゃん」

「それは、お前も一緒やろ・・・」
慈郎の癖の強い髪が、雨に濡れて余計クルクルになっていた。
「俺はね、忍足に比べて丈夫なんだよ。少々冷えたぐらいじゃ、風邪なんか引かねぇもん
忍足は見かけによらず華奢だもんね。夏場はよく血起こすし、冬はよく風邪引くし」

微笑みながら、大切なものを愛しむように髪の毛一本一本をタオルをあてる。



「お湯にゆっくり入って温まって。身体が温まると、きっと心も温まるからさ」
片目を瞑ってウインクした慈郎の可愛い顔にほっとした。
まるで、自分の家のようにお風呂にお湯まで張ってくれて、気遣ってくれる。


「冷蔵庫のもの適当に使っていい?」
慈郎はさっと身体を拭いて、慈郎には大きめな俺のトレーナーとズボンに着替えると
夕食の準備は自分がすると言ってキッチンの方へ消えてしまった。
湯気の立ち上ったバスルームに俺を残して。





どうしてそんなに優しくしてくれるんや?
本当は甘えてはいけないと、頭ではわかっているのに・・・
傍にある、温かいものに包まれたくてどうしようもない。

それが今度は君を傷つけてしまうとわかっていても。
我慢でき無い感情に支配されていた。
こんなに弱い自分の存在がうっとうしい。

肌に当たる痛いくらいのシャワーのお湯が全てを洗い流してくれたら・・・いいのに。





頭はぼーっとしているようでも、イヤでも鮮明に蘇る記憶辛うじて涙だけは洗い流してお風呂から出た。
それでも慈郎が入れてくれた喉に流し込むと口いっぱいに広がるココアの上品な甘みが
その温かさと交じり合って凍り付いて割れてしまいそうな心を暖めてくれた。





「俺のトレーナージローにはちょっと大っきいな。今日は我慢してな」
「うん、俺ちびだしね。でも大は小を兼ねるって言うだろ。それに高校を卒業するまでには忍足より大きくなってるよ」
慈郎は笑いながらすぐに落ちてくる長い袖を、手の指が見える程度に引き上げた。
「先の長い話やね」
俺はその頃どうなっているんやろうと思ってしまった。
「3年なんてすぐだよ」と言って慈郎は笑う。


その時初めて慈郎は小さいけど、自分よりずっとしっかりしとるんやと忍足は思った。