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【腐:東巻】名前サイクル

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東堂尽八は箱根学園の生徒で、対する俺、巻島裕介は総北高校の生徒だ。双方の土地は神奈川と千葉、とてつもなく遠いわけではないが、近いわけでもない。少なくともふらっと遊びに行く距離ではない。
 そのはずなのだが、なぜかいま東堂は俺の家の俺の部屋に来ている。

「なんで毎度毎度人ん家にいきなり来るんだか……。普通連絡くらい入れるっショ」
「巻ちゃんが毎度毎度そう言うから今日はちゃんと連絡しただろう?」
「ああ、呼び鈴鳴らすのと同時だったけどな」
「いやーやっぱり巻ちゃん家はでかいな!部屋も相変わらず綺麗にしてるし!おっこのDVD新しいやつだろ!よし一緒に観ようぜ!いつものでかいテレビ出して!」
「勝手に物色したら死刑って言ってるっショ!」

 俺はしぶしぶテレビを取り出し、東堂と一緒にDVDを観た。DVDはサスペンス映画だったが、鑑賞中の東堂はずっと喋りっぱなしでそれどころじゃなかった。「俺の方がかっこいい」だの「犯人は誰?」だの「うわっグロッ!」だのと、なんとか本編に関係あることから、「最近調子どう?」だの「この前ファンの子から手紙もらった」だの「ハコガクの食堂に新しいメニューが入った」だの、どうでもいいことまで。こちらが生返事でも変わらず喋り続けるので、緊迫感をまるで得られないうちに映画のエンドロールが終わった。

 そうしたら次は腹が減ったとわめきだしたので、仕方なく冷蔵庫から貰い物のプリンと煎餅をふるまってやった。この組み合わせは俺のささやかな抵抗だったのだが、東堂は何の疑問も持たずに、甘いプリンをかきこみながらしょっぱい煎餅もかじっていた。俺はげっと思いながらプリンだけを食べた。

 すると今度は「暇だしゲームやろうぜ!この辺にUNOかなんかあったよなー」と、再び勝手に部屋をいじろうとしたので、なんとか先回りしてカードを取り出し、超絶つまらないであろう二人UNOを始めた。UNOなんてしばらく存在すら忘れていた。途中、「このカードの色を全部混ぜたら巻ちゃんの髪の色だな」と言われたので、「うるさいっショ水色カチューシャ」と返してやったら東堂は微笑んだ。UNOは五勝五敗できりあげた。

 たまの日曜日だというのに、人の家に乗りこんできては殿様状態の東堂。
 東堂は基本的に人の話を聞かない。聞いているが理解しない。理解するが改めない。それらは俺に対してとくに顕著だと感じる。
 こうやって今日という日は終わるのだろう。東堂に休日を潰された日は数えきれない。
 しかし神奈川からわざわざやって来たことを考えると邪険に出来ず、結局家に招き入れてしまう。そしてすぐに後悔するという悪循環を断ち切れないでいる。

 とくにすることもなくなったので、東堂が月刊サイクルタイム最新号を、俺は月刊サイクル人最新号をだらだらと読んでいた。
 東堂は雑誌を読んでいても相変わらず俺に話しかけてくる。俺も相変わらず適当な返事を並べる。そのサイクルの繰り返し。

「あー巻ちゃん家やっぱ最っ高だな!」
 東堂は読んでいたサイクルタイムを乱雑に置き、上機嫌な声で床へと寝転がった。
「やっぱり家デートはいいな。人目を気にしないっつうか……。ほら、やっぱり俺くらいの美形が街にいると女の子がほっとかないしな」
「ねえっショ」

 俺が雑誌を読みながら思ったことをありのまま吐き捨てると、東堂はすぐ上体を起こし、驚いたような目をこちらに向けた。
 さすが勘違い野郎だと呆れを通り越し感心すらしていると、 
「えっなに巻ちゃん嫉妬!? 嫉妬だろ!」
 と、さらに斜め上の言葉が返ってくる。
「だからねえっショ。てかデートなのこれ」
「はあ?休みの日に好きな子の家で一緒にDVD観ておやつ食べてUNOしたらデートだろ。じゃなかったらなんなんだよ?」
 正論のようで正論じゃない東堂理論。
「好きな子って…………」
 鳥肌たつっショ、と自分の肩を冗談っぽくさする。

 本当は鳥肌なんてたっていなかったが、気持ち的にはそのくらいの勢いだ。いや実際に心臓あたりはぼつぼつとしていると思う。それくらいなにかこみ上げてくるものがある。
 こちらを小馬鹿にしたように自信満々で馬鹿みたいなことを言っている馬鹿みたいな東堂。こいつの言葉のチョイスのむず痒さったらない。

 冷ややかな態度をとっていると、東堂はずっと動かし続けていた口を急に閉じて下を向く。
 それが数十秒も続いた。こんな東堂は珍しい。
 柄にもなく俺の言葉に傷ついたのだろうかと少しだけ心配になり声をかけようとすると、東堂の口が再び動き始める。

「……巻ちゃん、もしかして今までそういうことがないのが不満だったのかね」
「は?」
 あまりにも唐突で意味不明な言動に、俺は思わず間抜けな声が出る。
「もう俺と巻ちゃんの関係も随分経つし…………うん………いい頃合いだろう」
 いつになく一人よがりなことをぶつぶつ呟く東堂、その様はどう見てもよからぬことを考えているようにしか見えない。

「巻ちゃん!」

 東堂は俺の名前を呼ぶとともに伏せていた顔を勢いよくあげた。
 左手で俺を指し、右手は自分の胸元にあてるという自称かっこいいポーズをとりながら、やけに真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

「巻ちゃんに、俺のはじめてをやろう!」

 無駄にでかい声が響いた。
 予想以上のよからぬ考えとよからぬ台詞。その場が静まり返る。

「あってめっ!事の重大さがわかってないようだな巻ちゃん!はじめて……つまり俺の体だ」
 東堂は少々顔を赤らめ茶目っ気を演出しながらそう付け加える。

 はじめて、体、セックス。いやな単語が頭の中にまわる。
 勘違いであって欲しかったが、どうやら本当にそういう意味らしい。
 東堂尽八、こいつは一体どういう思考回路をしているのだろう。
 俺はますますどんびいて静まっていくばかりだ。

「ってわけで巻ちゃ――」
「はなれろ」
 俺に飛びかかろうとした東堂の顔に自慢の足で蹴りをいれてやる。
 これは正統防衛だ。

「ってえっ……!なぜだ!? 今更照れているのか巻ちゃん!巻ちゃんの永遠の最強ライバルかつハコガクきっての美形クライマー東堂尽八のはじめてがもらえるんだぞ!?」
「いや、なぜもなにも……なんでいきなりそんな話に」
 東堂の話は唐突すぎて理解不能だ。

「だって俺巻ちゃんのこと好きだし」
「俺もお前も男っショ」
「好きなら関係ないだろう?」
 なんの疑問もないというまっすぐな瞳をぶつけてくるから、力が抜けそうになる。こっちは問題大アリだ。

「俺は女子が好きだから無理っショ」
「あ、俺も女の子好きだぜ。可愛いしいい匂いだし。スターはファンを大切にしないとな」
「ならその子らに……」

「でも」
 東堂は俺の抵抗する足をするりとよける。
「巻ちゃんはもっと好きだ」
 真剣な声、真剣な目、真剣な口で、射程距離へ侵入してくる。
「一番好き」

 息がとまる。
 瞼が重くなっていく。
 唇が唇へと近づいていく。

 しかし射し込んでくる夕日のまぶしさでふと我に返った。
 俺はなにをしているのだ。なに素直に受け入れようとしているのだ。

 東堂と俺との間に雑誌をわりこませ、東堂の口を強く叩く。
「ふがっ!?」