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短編『てのひらの温度』

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「さて、どうでしょうか。……全く、彼もどうしてよりによって貴方に相談など」
「うわー、その言い方お兄さん傷付くなあ。まあ、なんかルートヴィッヒに連絡付かなくて、俺だったら日本のことも詳しいだろうからってことらしいけどね。でもあのギルが健気だよねー。『風邪で弱ってるときは慣れてる看病の仕方じゃないと落ち着かないだろ』なんて言ってくるんだもん。本田ってば愛されてるなあ」
「はあ、どうもありがとうございます」
「本田の調子も本気で悪いみたいだったし、お兄さんだってさすがに自重はしたんだよ。メイド服で看病しろ、とかキスしたらギルに風邪がうつって早く治るんじゃ、とか全裸で布団に入って温めてあげればいい、とかは言ってないからね」
「黙れ変態」
 どこのエロゲーだと言いたくなる例を挙げるフランシスに、菊はいつもならば心の中で留めるべき本音をついうっかり口にしていた。
 たしかに彼が挙げたそれらは、菊にも『萌える』ものだ。ただし二次元に限る。それは傍観者に徹していたりゲームなどで疑似体験する場合のことであり、実際に自分がして欲しいと思うわけではない。
「ちょ、本田ってばヤツハシ忘れてない?」
「……恐れ入ります、すみません。風邪のせいで建前がストライキを起こしているようです」
「それは俺に対する嫌がらせ!?」
 ストライキが自国の名物となっているフランシスは、電話の向こうでわざとらしく悲鳴を上げ、泣き崩れる真似をした。
「でもまあ本田もさ、風邪のときくらいは素直に伝えて甘えてやりなよ。寝込んでるの見てギルの奴本気で心配して大慌てしてたんだから」
 いきなり真面目な声で囁かれ、菊は笑みをこぼした。彼は『世界のお兄さん』と自称しているだけあり、こういうところは敵わない。
「……そう、ですね」
 穏やかな気持ちで答えた菊に、フランシスは彼の常らしくふざけた言葉を続ける。 
「そうそう、昔は俺の投げキッスを真似しちゃうくらい素直だったでしょ」
「分かりました……自分に素直になって、フランシスさんは今後お盆時期と年末には我が国に出入り禁止とさせていただきます」
 しかしそれとこれとは別のこと。しっかりと菊をからかうことは忘れないフランシスに、彼はさらりと夏と冬の祭典への実質出入り禁止を通達した。
「本田の鬼! 悪魔! お兄さん泣いちゃうんだから」
「そのように言われるとは申し訳ありません。善処します」
 くすくすと、お互いに笑みをこぼしながらの会話。菊がこんな風に軽口の応酬ができるのは彼くらいだった。
 そろそろ電話を終わらせようと思っていた菊は、最後に言いたいことがあり口を開いた。
「そういえばフランシスさん。先程の質問ですが……たしかに私はギルベルト君の一連の行動には萌えましたけど、それは別に『萌え』の定番な行動だからとかは関係ありませんよ」
「へえ、そうなんだ?」
「ええ。そんな些末な行動などではなく、可愛い恋人が自分のことを心配して懸命になってくれるという行為そのもの全てが『萌え』ですから」
 貴方もまだまだですね。そう笑ってみせれば電話の向こうでフランシスが言葉をつまらせる。
「やっぱり『萌え』のことはお兄さんもまだまだ本田には敵わないなあ」
 のんびりとした口調で楽しそうに言うフランシスに、菊も楽しげに続けた。
「本家本元を舐めないでください。では失礼します」
「じゃ、また。アデュー」
 電話を切って振り向いた菊は、佇む人影ににっこりと笑った。
「おや、ギルベルト君。起きたのですか」
「……」
 フランシスとの会話を聞いていたのだろう。ギルベルトの顔は赤い。
「おっお前、完治してないのに上着も着ないで歩き回んじゃねえよ馬鹿!」
 乱暴な仕草で、彼に掛けてきた羽織を着せられる。その顔に浮かぶのは純粋な心配の気持ちだ。少し申し訳なく思いながら、菊は口を開いた。
「ちょっと緊急に電話をしなければならない用事があったので……」
 あの方にはしっかりと釘を刺しておかないと、何を言い触らされるか分かりませんから。心の中で溜息を吐きながら、ギルベルトの体温で少し暖かくなった羽織に彼は微笑む。
「……夕飯の用意するから、大人しくしとけよ」
 頬を赤く染めたギルベルトに背中を押され、菊は大人しく布団に戻った。念を押すように告げられた言葉に宿るのは、菊への思いやりだ。
 部屋を出る広い背中を見つめながら、菊はそっと息を吐く。
 その顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
「風邪のときは人恋しくなると言いますからね」
 それはこの歳になっても当て嵌まることだったのだなと、今回のことで改めて菊は気付いた。一人で何とかなると思っていたが、目が覚めてギルベルトの姿を見たときの安心感は何ともいえないものがあった。
 「今日は精一杯甘えましょう」
 せっかくの機会、思う存分活用してやろうと彼は思うのだった。