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雨やどり

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使い帰りの道…突如降り出した夕立に、一人の稚児が身を震わせ道を急ぐ。
けれど、一向にやむ気配を見せぬ雨に、とうとう根負けした稚児は、目の前に見えた社で雨宿りをしていくことに決めたのだった…。

高い石段を登り、拝殿に目をやる。
すると、そこには既に先客がいて、絶え間なく雨が落ちる空を見上げていた。
年の頃は自分と同じ。
着ている装束は、どこか古臭い。
しかし、どこか農民の子とも違う童の雰囲気に、恐らく出は良い子息なのだろうと悟らせた。
その空間だけ、一種異様な空気をまとっている。
それは、どこか神域に踏み入れるときのような、張り詰めた雰囲気を漂わせる。
「塗れてる…」
先程まで見惚れていた童の言葉に、はっとして自分の姿を見れば…袴の色は萌葱色から苔色へと変化している。
童は慌てて軒先へ入る稚児を確認すると、再びその目線を、空へと向けた。

飽きずに降る雨を、二人の童がぼんやりと眺める。
夕立にも関わらず、雲の切れ間さえ見えぬ状況に、使い途中の稚児は少し焦っていた。
「なかなかやまないな…」
「…うん」
独り言のような呟きに、まさか返事が返るとは思わなかった稚児は、小さく頷く童に驚きの瞳を向ける。
「あ…ここで、何していたの?」
「雨宿り」
「…それはわかる」
「…散歩」
天然なのか故意なのか…ちぐはぐな回答を、童は無愛想に呟く。
なんとなく、ニコニコと話しかける自分が、彼の機嫌をとっているようで。
なぜ自分がそんなことをしなければならないのか…疑問を感じた稚児は、「そう」とだけ呟いて再び押し黙ってしまった。
雨音だけが響く社は、夏の名残で酷く蒸し暑い。
木々の生い茂る社とはいえ、先刻までのうだるような暑さと、さらには雨による湿気で、額にはじわりと汗がにじむほどだ。
それは稚児も例外ではなく、涼しげな表情で雨空を見つめる童の横で、汗を拭き、使いを頼まれたはずの書籍を団扇がわりに使う始末だった。

この子は物の怪なのだろうか…?

ふと、稚児の頭に恐ろしい想像がよぎる。
この暑さの中、こうして涼しげな顔をしていられるのも、物の怪だと考えたら合点がいく。
もしかしたら、この子はこの山に住まう化け物の子で、同じ年頃の子供を、油断させては食らうのかもしれない…。
自分で自分の考えに、背筋をぞわりとさせた稚児は、相手の様子を伺うよう、恐る恐る隣に目をやる。

すると気付く。
童のうなじにある、小さな汗の玉に。

…我慢強いだけか。
ほっと胸をなで下ろした稚児は、自分のあり得ない空想にひそりと笑う。
そうして親切心から、汗を拭おうと自分の手拭いを童の首筋に当てやると。

びくり…と、体が震え。
手が振り払われる。

驚いた表情を見せる稚児に、童は切れ長の瞳をキュッと引き上げ。

「触るな」

突如張り上げられた声に動けぬ稚児は、雨の中へ走り出す童の背中を、ただ黙って見送るしかなかった…。
作品名:雨やどり 作家名:ユキ子