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Zero cross

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暑さが和らぎ本格的な秋が近づきつつある9月の朝、月光館学園の学生である早崎美琴が寮の後輩達と共に辰巳ポートアイランド駅を降りると、いつもの駅前と違和感を感じた。

「なんか人が多くない?」

確かに駅前には学校へ向かう年齢の様々な学生達が大勢いたが、彼女の指摘した≪人≫は学生ではなかった。
スーツ姿の大人が普段より多いのだ。
ポートアイランドまで毎日スーツ姿で通勤する大人もいることにはいるが、モノレール通学がほとんどを占める学園の初等部から高等部までの学生の人数に比べたら圧倒的に少ない。
そして違和感のもうひとつの理由は、駅から出てくる学生の流れに逆らうように駅へ向かう人の姿も多かったのだ。

「確か、コンベンションセンターで会議か何かあるみたいだよ」

「ふーん…」

同じ寮の後輩である有里湊たちといつものように登校し、高等部の校門近くに行くと女子生徒の会話内容が耳に入ってきた。

『さっき、コンベンションセンターの方ですっごい人見つけちゃった』

『すごいって?』

『すごいカッコいいの!3人組で全員外国人の超イケメン!』

『マジ!?私も見てみたかったー!』

(何くだらないこと話してんだか…。)

周りの会話をいつものように聞き流しつつ高等部の校舎に入っていったが、この数時間後に彼女はこの言葉を思い出すことになる。

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その日はそのまま何事も無く授業が全て終わり、部活も無かったので美琴は早々に下校する。
生徒玄関でばったり会った湊と伊織順平、山岸風花の後輩三人と駅に向かって歩いていった。

「そうだ、今日この後に『小豆あらい』行って甘いものでも食べない?私おごるからさ」

「お、先輩いいんすか?」

ふと美琴が言うと、ベースボールキャップを被った順平がすぐに食いつく。

「今日はちょっと甘いもの食べたい気分だからね~」

たわいも無い話をしながら駅前の広場に着くと、少し離れたところで同じ制服を着た女子生徒が何かを見ながらキャーキャー歓声を上げており、その熱い視線を追って美琴も視線を向けた瞬間固まってしまった。
女子生徒の熱視線と黄色い声にも気付かず、会話をしながら美琴たちの数十メートル先を歩く3人の男性の姿。
3人ともが朝に駅で見た大人たちと同じようなスーツ姿ではあったが、それでもはっきりと解るほどの強烈な見覚えがあったのだ。
思わず、手に持っていた剛健美茶の空き缶を握りつぶしてしまい隣にいた順平に驚かれた。

「先輩、空き缶…てか、それスチール缶ですよね?」

「あ…」

順平に少し的外れな指摘をされて見ると、固いスチール缶は見事につぶれていた。

「どうしたんですか?」

湊に訊ねられ、答えに迷う。

「あ~…ちょっとね…」

このまま何もしなければ相手もこちらに気付かないだろう。
しかし、美琴は通学カバンの手提げを握り締めて3人組に歩き出し、人目もはばからず真ん中の人物を狙ってカバンを思い切り振り上げた。
作品名:Zero cross 作家名:鴉葵