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はじめてのクリスマス

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「すっかり遅くなっちまったな…」

珍しく仕事がたて込み、きりがいいところまで、と作業を続けているうちに帰宅が思いの外遅くなってしまった。世間はクリスマスイヴだというのに、社会人になるとそういうのはもう関係なくなるなと少し感傷に浸りながら、門田は足早に家路を歩いた。
自分の部屋が見えてきたところで、ふと人影らしきものが見えた気がして、門田は思わず足を止める。こんな夜に空き巣だろうかと一瞬身構えたが、微かに漂う煙草の香りと、ちらちら見え隠れする金色を確認して、門田は次の瞬間には走り出していた。

「…よう、遅かったな」
「静雄!お前、どうしたんだ」

門田が駆け寄ると、静雄は煙草を携帯灰皿に押しつけて立ち上がった。

「いや、まあなんつーか、ちょっと気が向いたから寄ってみたんだけどよ」
「いつから待ってたんだ、この寒い中」
「ついさっきだよ、俺も今日は残業でよ」
「本当か?まあとにかく入れよ、寒かっただろ」

門田は静雄を部屋に入れると、自分一人の時には滅多に使わないこたつの電源を入れた。冬に誰かが訪ねてきた時に暖をとるものがないのは悪いだろうと思って買ったものだ。いつものメンバーやこんな風に静雄が訪ねてきた時には電源を入れるが、一人の時は節約のためにも厚着して暖かくないこたつに入っていることの方が多い。

「お前んち、こたつあっていいよなあ」

さっそくこたつに入って暖まりはじめた静雄の締まりのない顔に門田はクスリと笑いながら、砂糖を多めに入れたコーヒーを差し出した。

「で、どうしたんだこんな時間に。何か急ぎの用でもあったのか」

聞きながら、自身も静雄と向きあうようにこたつに入って腰を落ち着ける。自分用に淹れてきたブラックコーヒーを口に運んで一息ついていると、静雄が決まり悪そうにごにょごにょと話しはじめた。

「いや、なんつーかまあ…用があるってわけじゃないんだけどよ…さっき帰り際にお前の連れと会って、お前がまだ仕事してるって聞いてな」
「ああ、遊馬崎と狩沢か。夕飯誘われたんだが、急ぎの仕事が溜まっててな、悪いけど断ったんだ。結局あいつら、遅くまで街ブラついてたんだな」

渡草は確かクリスマスライブに行くとか言っていた。おそらくいつものアイドルだろう。随分前から浮かれて、心ここにあらずといった様子だった。

「そんで、まあなんだ…こんな日だし、残業同士かと思ったりしてな…足が向いたっつーか…」
「静雄…」

視線をうろうろさせながら照れたように話す静雄の様子に、門田まで気恥ずかしい気持ちになる。
こんな日、というのはクリスマスイヴだということを意識してくれているということだろうか。だとしたらこの上なく嬉しい。嬉しさをじんわりと噛み締めていると、静雄が唐突にビニール袋に入った荷物をガザリと机の上に置いた。

「…なんだ?」
「…まあ、一応こういうのあった方がいいんじゃねえかと思って」
「こういうの?」

言ったきり下を向いてしまった静雄のかわりに、門田は袋の中身を確認する。
中にはビールやチューハイが数本と、いちごの乗ったショートケーキが二つ、入っていた。

「あ…」

門田が思わず声をあげると、静雄がまあ雰囲気的にな…とぶっきらぼうに答えた。

「ありがとう、すげえ嬉しいよ。クリスマスって感じだ」
「…おう」

嬉しさを隠さずに声にのせてそういうと、静雄はあさっての方向を向きながら返事をした。照れているのだろう、門田からよく見えている静雄の耳は真っ赤になっていた。門田も嬉しさで顔が熱くなるのを感じながら、ケーキと、一緒に入っていたプラスチック製のフォークをそれぞれ静雄と自分の前に置く。

「…メリークリスマス、って、言ったらいいのかな」
「なっなんだそりゃ」
「いや、せっかく静雄が買ってきてくれたからな、クリスマス雰囲気を味わおうかと」
「照れまくりじゃねえか」
「あ、いや、すまん…柄じゃねえからな…とにかく、メリークリスマス、静雄」
「まあ…それ言うなら俺もだけどよ…メ、メリークリスマス」
「………」
「………」

目が合った瞬間、同時にふっと笑いだす。
こんなの無理だって!と声をあげて笑いはじめた静雄につられて、門田もそうだな、と声をあげて笑った。ひとしきり笑ってしまえばお互い妙な照れくささは消えていて、いつも通り自然に話ができるようになっていた。

「まさかお前がこんなことしてくれるなんてな。いいクリスマスになった、ありがとな静雄」
「いや、まあ俺もたまにはイベントに乗っかっとくかと思ってよ…チューハイとコンビニケーキだし、なんも格好ついてねえけど」
「そんなことねえって。俺はすげえ嬉しかったよ、今日の帰り、クリスマスなんてないも一緒だくらいにやさぐれてたからな…余計嬉しかった」


作品名:はじめてのクリスマス 作家名:ルーク