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暗やみは何処

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 軍議室に籠って地図を眺め、次々塗り替えられる戦力図を指でなぞっていた大谷に、不意に姿のない声が呼びかけた。
「ちょっとそこの大谷さん?」
「どこぞの巫のような口をきくな」
 包帯を全身に纏い、仄暗い眼ばかりを光らせる男の傍へ、闇が固まるようにして姿を現した佐助は相手の苦情を全く気にせず続けた。
「あんたンとこの凶王さんの嫌ぁーな口癖に、うちの大将が影響されまくっちゃってるんだけど。何とかなんないのあれ?一応総大将でしょ?人心掌握のためにいじっとかなくていいわけ?連合軍の大将が殺す斬る滅するって一体どこの魔王さんかと」
 大谷は、言葉の途中でふっと鼻で笑った。
「あれは心のままに生きているまで。それを無理やりに歪めるなどと、我にはトテモトテモ出来はせぬ」
「うっさんくさいねえ、必要だったら何でもやる人でしょあんた」
「意味もわからず真似をする方が短絡なのよ。三成の言葉はあの男の真実の声、なればこそ例え怨嗟であれ人の心の裡に入り込む。あの男に群がる者もまた多かろう?
 子供は人真似が好きで苦労するわなあ」
 佐助の口元が、ひくりと痙攣した。そっちがそうくるなら言い返してやろう主に凶王のあれやこれについて、と自重をかなぐり捨てた忍が口を開きかけた瞬間に、聞き慣れた声が向かい合う二人の耳に滑り込む。

「――つまり、それは斬って総てを滅するという意だ」
 淡々とした声音が誰のものか、瞬時に二人は気付いた。
「ほう……。なるほど。潔い御言葉にござる」
 感心する声音をあげた者についても、また同じく。

 そうだろうか、と佐助は遠い眼をして反射的に突っ込んだ。どう考えても声高に叫ぶには性質の悪い言葉ではないのか。主はどうも、己の認めた者に対してはやや盲目的に好意を持ちやすい。ちなみに眼の前にいる大谷も、同じような温い眼になっている。声はますます近づいてきていて、恐らくは外の回廊をこちらへ向けて進んでいるのだとわかった。
「貴様の場合は、……斬りもするだろうが貫くほうが多い。合わない」
「おお、それはそうでござるな」
 論点はそこじゃない。というか、真似しようとしていること自体は気にしないのか。佐助がますます脱力してちらりと視線を向ければ、大谷はすでに素知らぬふりで視線を外していた。
「では某に相応しい掛け声とはどのような言葉になりましょうか」
「……それを私に聞くのか?」
 不快よりは、呆気にとられたような驚きを主体に置いた声に、同じく「あんた一体何訊いてんだ」と思った佐助はすかさず動いて軍議室の扉を開け放った。扉の傍まで来ていた凶王と若虎は同時に視線をこちらへ向ける。
「おお佐助!ちょうど今三成殿に―――」
「そうね、よかったね、よかったよね疑問も晴れて!じゃあこれからお二人は話があるだろうから退散しましょうか大将!」
 物凄い勢いで捲し立てた佐助をひょいとかわして扉の中を覗きこんだ幸村は、
「これは大谷殿、」
 と言って丁寧に礼をした。
「やはりここにいたか、刑部」
 そう言って佐助と入れ違うように室内に入り込んだ三成に対しても改めて礼をして、「では某はこれで失礼致す」と告げる。頷いてみせた三成の顔には特に不快は残っていない。どうやら俺様の主はそれなりにうまくやっているらしい、と改めて感心した佐助の前で、幸村は最後にもうひと声かけた。
「大谷殿、今宵も良い星が見えると良いでござるな。次の星見には某もご一緒させて下され!」
 この間は見えなくて残念でござった。と告げる男を見返して、大谷はわずかに眼を細めた。
 鬱陶しい程に煌めく焔が、靄に包まれ水に沈む姿を見るのはそれなりに心地よい。だが一途なまでにただ一人に追い縋ろうと手を伸ばすこの虎は、形は違えどどこか三成に通じるものを持ち、例えその水面近くへ顔を出そうとも大谷を不快にはさせなかった。
 水底にありて尚、星を探すか、虎の子よ。
 大谷は、羽を切られ飛べずに足掻く野鳥を眺める様な微笑ましい気分で答えた。
「ああ。――ぬしに見えるとは思えぬがな」
 不幸の凶星は。
 言外に告げながら、曲がりなりにも肯定を返した男に、佐助の方が度肝を抜かれた。

 連れだってその場を辞した後に、
「やっぱあんたさすがだわ」
 佐助が呟くと、幸村はやはりわけがわからないと言いたげに首を傾げた。
「ってか俺様以外に恥ずかしいこと聞かないでよね!」
「お前が妙な反応をするから気になったのだ」
 悪びれなく答える幸村を横目で見つめ、佐助はやれやれと肩を竦めた。


 しかしそれで済ませるのは早かった。
 とある戦場で幸村が叫んだ言葉が引っかかり、佐助は拠点へ戻ったのちに尋ねてみたのだ。
「大将、今日なんか珍しい言葉使ってたねえ」
「む?」
「元風来坊に。ナニナニの三乗、ってやつ」
「前田殿は、相も変わらず破廉恥極まりない!」
 途端に顔を赤く染めていきり立つ主を、両手で宥めながら続ける。
「はいはい、そうね。かすがも大変だあね。
 じゃなくてさ、“三乗”って大将、意味わかってんの?」
 つくづく主を馬鹿にしたような問いかけだが、佐助は真面目な顔をして問いかける。
 それに対し、幸村は胸を張って答えた。
「同じものを三度掛け合わせる事!」
 その速やかな反応に、佐助は嫌な予感がした。
「それってもしかしてこないだのあの……」
 凶王が見知った相手を蔑み尽くして「馬鹿の三乗め」と吐き捨てたことを、佐助もまた聞いていた。
「うむ、三成殿に教わったぞ!」
 また意味まで聞きに行ったのか。佐助は再び額を抑え、本当ごめんなさいすみません凶王さん、と内心で平謝りをした。わりと快く答えてくれているらしいあたりがまた居た堪れない。
「……大将、時には真面目にやりあわなきゃいけない俺様の立場忘れないで…」
 大谷あたりが知れば、ここぞとばかりに突きそうだ。あの男とはもう何度か心理戦を仕掛け合う気がするが、盤外で既に負けた気分すらある。
「何だ佐助、妙な顔をするな」
 忍の心を知らぬ主は、やはり最近にしては珍しく、朗らかな良い顔をしている。
「……ま、いっか」
 結局は主の心が晴れているのが一番な忍は、目尻を緩めてへらりと笑った。

作品名:暗やみは何処 作家名:karo