幸せなイブの日
「ねぇ!静雄おにいちゃん、サンタさんはいるよね!?」
公園で休憩していた静雄とトムを見つけ、唐突にちょっと怒り気味に聞いてきたあかね。
「あ?なんだ急に?」
「学校でね、皆がサンタさんはいないなんて言うの!」
「あぁ?サンタ?・・いるに決まってんだろ。
でもなぁ、サンタってのはいい子にしてなきゃ来ねぇんだ。いないなんて言うやつはいい子じゃねぇんだよ。」
「・・・じゃあ茜のとこにはもう来てくれないかなぁ?」
「?なんでだ?」
「だって・・・静雄おにいちゃんを殺そうとしたんだもん。
あかね、いい子じゃないでしょう?」
「あぁ。なんだ。お前そんな事心配してんのか。
あのな、確かに人を殺そうなんていい子とは言えねぇ。
でもそれだって父親のためだし、それに現に俺はこうして生きてる。
お前と出会えたことも悪くねぇと思ってるんだ。
お前が俺を殺しにこなきゃ出会ってすらいねぇ。だからいいんだよ。
それにちゃんと悪い事だとわかってるし、一応反省もしてるしな。
サンタは来るさ。」
「ほんと?じゃぁサンタさんあかねのところにプレゼント持ってきてくれるかな?」
「あぁ。いい子にしてればな。」
「うん!あかねいい子にしてる!静雄おにいちゃんはサンタさんに何お願いしたの?」
「俺はもう子供じゃないからサンタは来ねぇよ。
まぁ子供のころもいい子じゃなかったからサンタは来なかったけどな。
さぁいい子はもう家に帰れ。暗くなる前にな。」
「はぁーい!またね、ばいばーい!」
「ずいぶんと子供の扱いが上手くなったな。」
あかねの背を見送る静雄に、後ろでやりとりを見ていたトムが声をかける。
「いやぁ・・・。でもあいつも子供らしいとこありますね。
・・・トムさんは子供の頃サンタとかいました?」
「ん?サンタ?まぁ普通に小学生くらいまではいたな。」
「いいっすねぇ。うち、サンタいなかったんすよねー。
普通にプレゼントもらうだけで。だから枕もとにプレゼントとかちょっと憧れてました。」
「へぇ〜、めずらしいな。でもまぁサンタやる親も大変だしなー。」
「そっすね・・・。」
「クリスマスなんておもちゃ会社かアクセサリー屋が儲かるだけだな。」
公園の中を笑顔で歩く親子やカップルを見ながら言う。
寒い街の中を皆暖めあうように歩いている。
そんな街の人々を見ていて、ふと隣の静雄の薄着に気づく。
「つうかお前その格好で寒くないのか?せめてマフラーぐらいしろよ。」
言われた静雄の格好とはいつものバーテン服だ。
いつも同じのを着ているので、薄着なことすら疑問に思わなかった。
「あーそういや寒いっすね。そういうの鈍いんで気づかなかったっす。」
「気づかないってお前・・・。鈍すぎるだろ。
まぁいいや。ここにいても寒ぃし、そろそろ働きますかぁ。」
「うす!」
急ぎ足で帰路につくサラリーマン。
安い飲み屋を探してうろつく学生達。
そんな中に混じって、少し異様な空気を纏いながら大きな袋を両手に持った3人組。
「いやー、今日も大収穫だねぇゆまっち!」
「はいー!先週イベントあったばっかですから、今の虎の穴は新刊パラダイスっすからねぇ!」
「お前らなぁ。一緒に来てくれとか言うから来てみれば、人を荷物持ちに・・・」
「あっれー??」
狩沢、遊馬崎、門田の3人がいつもながらの会話を繰り広げながら歩いていた時、
突然狩沢が変な声を上げたかと思いきや2人の腕を掴み、物陰に引っ張った。
「なんだ?急に?」
怪訝そうに尋ねる門田に
「あれあれ。あれ、シズシズじゃない?」
と狩沢が指さす方には、確かにバーテン服に金髪の男が立っていた。
後姿だが、静雄以外にあの格好で池袋をうろつく勇者はいないだろう。
「あぁ。ありゃ確かに静雄だな。しかしなんだって隠れなきゃいけないんだ?」
「んもー!ドタチンのおにぶさん!」
「そうっすよ、門田さん。静雄さんの目の前の店見てくださいよ!」
「店?」
改めて静雄が立ち尽くしている前の店を見る。
「アクセサリーショップ??」
そう、静雄が見ている店は、最近男女共に人気のあるシルバーアクセサリーの店だった。
「めずらしいな、あいつがアクセサリーなんて。」
「やだなぁードタチン!この時期にアクセサリーといったら、そりゃクリスマスプレゼントに決まってるでしょー!
きゃー!誰にかなぁ?誰にかなぁ?私の予想だとぉイザイザかぁ田中さんだね!」
「いやいやいや、案外普通にリア充しちゃってて、金髪美女へかもしれないっすよぉ!」
「えぇー、私としてはぁイザイザへツンデレでプレゼントしてほしいなぁ。」
「ったく。勝手な妄想繰り広げてないで戻るぞ。」
勝手な妄想をし始めた2人をおいて、静雄がいる方とは反対に歩きだす門田。
「えぇー突っ込まないのぉ?ドタチンも気になるでしょぉ?」
「あいつの性格上もし本当にプレゼントならこういう所見られたくないだろう。
変にちょっかいだして暴れられても面倒だ。ほら、行くぞ。」
「ちぇー。まぁそれでこそ妄想は広がるけどね。意外な所でドタチンにだったらどうするー?」
「うわーそれはまたマイナーっすねぇ!」
「それかそれかぁ・・・・・」
きゃっきゃっとはしゃぎ始めた2人。
それを横目に門田はため息をつき、回り道することになったがワゴンへと足を進める。