幸せなイブの日
「なんだ・・・これ・・・?」
クリスマスの朝。平和島静雄の開口一番に出た言葉はコレだった。
原因は枕の横におかれたプレゼントのような包み。
ふんわり雪の結晶がプリントされた袋。
その袋の口がゴールドのリボンで閉じられている。
無造作に小さなメッセージカードが袋に貼られていた。
そのカードにはただ一言『サンタより』とだけ書かれている。
「サンタ・・・。どうやって部屋に入りやがったアイツ。」
見覚えのあるゴールドのリボンでサンタの正体に気づく。
しかし、初めての枕元のプレゼントに心は弾んでいた。
リボンをほどき中を見ると中には暖かそうなグレーのマフラーと手袋が入っていた。
「おはよう。」
「おはよう。波江さん。
ずいぶんと不機嫌そうだけど、昨日はまさか誠二君が彼女と楽しそうにお祝いしてる所を覗きにでも行っちゃたのかな?」
「うるさいわね。黙らないとあなたのパソコンにコーヒーかけるわよ。」
波江はコーヒーをカップへと注ぎながら臨也の方を見る。
すると臨也の指にはめられた指輪に気づき、感情のない声で、
「その指輪、あなたがこの前簡単に壊れるように傷つけてた指輪よね。
まぁ何が目的なのかおおかた想像はついてたけど。
それが新品になってるってことは、上手くいったみたいね。」
「あぁ。予想外の事が起こってね。最高のクリスマスイブだったさ!」
「ほんと気持ち悪いわね。」
無表情で言い放つと波江は仕事にとりかかった。
「最高にかわいい寝顔も見れたしね。」
小さな声で臨也から発された言葉は波江に届くことなく消えていった。
まるで秘密を隠すかのように。
昨日から天気予報でホワイトクリスマスになるかもしれないと言われ、池袋の街は騒がしかった。
「あー寒ぃなぁ。今日はまた一段と冷え込むな。」
街のはずれのアパート前。一仕事終えて、缶コーヒーで暖をとりながらトムが静雄に話しかける。
「そうっすねぇ。もしかしたら雪降るかもしれないらしいっすよ。」
「あーそういやテレビでそんな事言ってたな。
さすがに今日はマフラーとか出してきて正解だったな。」
「・・そうっすね。」
「お前もついにマフラーと手袋買ったのか?さすがに寒ぃもんなぁ。」
「まぁ。・・・やっぱあったかいっすね。」
「ははっ今更かよ。でもほんとあったかそーだなお前の。」
「うす。・・・あったけぇっす。」
「さて、じゃぁそろそろ次行くかぁ。」
そう言ってコーヒーを飲み干したトムは次の仕事場へ向かうため歩きだす。
「うす。」
そう返事してトムの後に続く。
マフラーの下に隠した頬は寒さのせいではなく、少し赤く染まっていた。