幸せなイブの日
街のそこかしこから響いているクリスマスソング。
12月24日。
今日が勝負とサンタやトナカイの格好の客引きがあふれ、
恋人達はレストランやイルミネーションの名所へと消えていく。
そんな中仕事を終えた静雄は一人新宿へと向かっていた。
ポケットには例の指輪が入った赤い袋が無造作につっこまれていた。
「くそノミ蟲が。こんな時ばっか現れねぇ。」
ここ数日ずっと指輪をもったまま仕事をしていたが、臨也が現れることはなかった。
ラッピングがクリスマス仕様なのにクリスマス後に渡すのも気まずく思い、新宿までわざわざやってきたのだ。
マンションの前で躊躇する。
「ポストに入れて帰るか・・・。でもそしたら名前とか残さなきゃ・・・か?・・・いや・・・
・・・・っああああああめんどくせぇ!らしくねぇ!!」
もともと考えるなんて性に合わないことはやめて、突っ込むことにした。
ガンッ!!
「おい!ノミ蟲!!」
「!?シズちゃん!?え?なに?ていうか人ん家のドア乱暴に扱わないでくれる?」
「うるせぇ。だまれ!」
「わっ」
顔に向かって投げられた小さな袋をキャッチした。
「なにこれ?」
「いいか?これで手前に文句言われる筋合いはねぇからな?」
「なに?クリスマスプレゼント?シズちゃんが?俺に?」
「キモイ事言ってんじゃじゃねぇよこのノミ蟲が!
手前がこないだ高いだのなんだの言うから!
俺はなぁ手前みたいに性根腐ってねぇんだよ!」
ゴールドのリボンを手早く解き、中身を確認して笑う臨也。
「なに?つまりこないだ指輪壊した事を気にしてわざわざ同じものを買いに行き、
店員にラッピングを進められ断れなくてクリスマスのラッピングなんかしてもらちゃって、
あげくクリスマス以降に渡すのは気まずいと思って届けにきた。そんなところかな?」
「手前・・・いちいち解説してんじゃねええええええええ!」
近くにあった分厚いファイルを臨也めがけて投げる。
「おっと、やめてよねこんな日に人ん家破壊するの。
ていうかそもそもクリスマスイブの夜によく俺がいると思ったね。」
ファイルをきれいにキャッチしながら言う。
「手前に誰かと予定なんかねぇだろ。あってもどうせくだらねぇ情報集めだ。」
「・・・なにげにすごい失礼だよねそれ。シズちゃんだってこんなトコ来て予定のひとつもないくせに。」
「うるせぇ、手前と一緒にすんな!ったく胸くそ悪りぃ。とにかく弁償したからな!!」
バタンッ!!
勢いよくドアを閉め去って行く静雄。
後に残され突然の出来事に立ち尽くす臨也。
「だからドアを・・・ったく、シズちゃんは。
でも、クククッまさか届けに来るとは・・・これだから面白いね。シズちゃんは。」
「さて、じゃぁ俺もサンタになりに出掛けるかな。」
にやりとほほえむと、もふもふのファーのついたいつもの黒いコートをはおり部屋を後にした。
指にはきちんとさっきの指輪をはめて。
なぜかその手にはさっきのプレゼントについていたゴールドのリボンを持って、
臨也はクリスマスソングの響く街へと姿を消す。