聖なる夜に口づけを
「極限、何事かーーーー!!」
「ぎゃぴーーーーー!!」
ドスンと何かが落下して、もくもくと煙を吐き出す暖炉から転がり出てきたのは全身煤だらけの真っ黒い凸凹コンビ。汚れて破れてはっきりとわからないが、どうやらサンタの格好をしたツナヨシの∧晴∨と∧雷∨の守護者である、笹川了平とランボだった。
「了平さん!ランボ!そんなとこで何してるんだよっ、二人とも」
おそらくは、先ほどの爆発の余波を受け煙突から落下してきたのだろう。たいしたケガもない(というか、あれだけの爆発でなぜ無事なのか、はなはだ疑問だが)様子で埃をはたいて立ち上がると、エヘンと胸を反らせて宣言する。
「うむ、なにせクリスマスだからな。常日頃がんばっている沢田をねぎらってやろうと忍び込んできたのだ!さっきの爆発でプレゼントは燃えてしまったがなっ!!」
「ランボさんは、プレゼントもらいに来てやったんだもんね!ツナ、プレゼントくれ!!今すぐくれー」
ボロ布となった元・サンタ袋をプラプラと振る了平とあたりを駆け回るランボのゴーイングマイウェイ&能天気な空気に当てられて、先ほどまでの息もつけない戦いの緊張感はきれい、さっぱり消え失せた。
「・・・てめぇ、この芝生頭とアホ牛のボケコンビが!!すっこんでろ」
「なにおぅ、タコヘッド。極限にプンスカだぞ!」
「そーだもんね!アホ寺」
「まあまあ、落ち着いて」
睨み合う了平・ランボの凸凹コンビと獄寺、それをなだめる山本、お馴染みの光景だ。
「ところでお前たち、沢田の部屋で一体何をしてるのだ?」
そう言って了平がキョロキョロと辺りを見回すと、肩をすくめながらもその手に銃をもて遊ぶリボーンに、抜き身の刀をぶら下げた山本、壊れて吹き飛んだサイドテーブルに、破損した調度品の数々、室内には獄寺のダイナマイトの煙がたちこめていて。
「おう、そうか!異種格闘ハイブリッド相撲大会だな!!極限にオレも参加するぞーーー!!」
「え、何々?ランボさんも出るんだもんね!優勝賞品独り占めだもんねっ」
勝手にギャイギャイと盛り上がり、さらなる騒動に発展していく光景を前にして、クラリとツナヨシは眩暈に揺れる。
(ああ、もう、余計大変なことに・・・)
限界をとうに越えた睡魔と疲労に、がっくりと首を落としたツナヨシだったが、次の瞬間、ぞわり、と全身に鳥肌が立った。
(な!この感覚は・・・)
「くふふ、随分と賑やかですね」
艶めいた美声が響いて、ゆらりと空間がねじれ歪んだかと思うと、青白い霧が部屋に発生した。そうして、ツナヨシのすぐ側に集束していく霧の中から現れたのは、奇抜な髪型が特徴的な長身。ツナヨシの、∧霧∨の守護者である六道骸だった。お得意の幻覚で、ご丁寧にサンタの衣装まで再現している。
「な!ムクロ!!・・・・オレ、すっぱり、きっぱり、微塵も呼んでないぞ?」
「・・・相変わらずつれないですね、ツナヨシ君。まあいでしょう。散歩をしていたら、ちょうどキミの側まで来たものですから、寄ってみました」
『呆れ』、『迷惑だ』、『帰れ』という感情を隠しもしない、ツナヨシの冷たい視線など露とも気にせず、ムクロは喜々としてベッドに腰掛けると、手錠で繋がれたツナヨシの頬をそっと撫でてゆく。
「くふふ。ですが、これは良い時に来ました」
「ちょ、ムクロ!」
くすぐったさにツナヨシは身をよじって彼の手を避けるが、拘束されていては思うように動けない。それをいいことに、ムクロはさらに挑発的に手を進める。
が、その時。彼らのすぐ横の壁が吹き飛んだ。
外側から見事に粉砕されて、カラカラと崩れ落ちる壁(いちおう衝撃に耐性のある特殊素材なのだが)を踏み越えて侵入してきたのは、誰であろう『ボンゴレの歩く最凶』、∧雲∨の守護者・雲雀恭弥であった。
「何してるの、君たち。夜中に群れてるなんて、許さないよ」
ジャキッと両手にトンファーを構えた彼も、何故かサンタの衣装を着用だったりする。
「ひぃ、ヒバリさん!!」
恐怖に引きつるツナヨシとは対照的に、了平はいたって呑気に声をかける。
「おう、雲雀か!これで守護者が全員揃ったな。なに、ハイブリット相撲大会だぞ!お前も参加するだろう?」
了平の言葉に、ムクロはベッドにつながれたツナヨシをじっとりと見つめると、フムと一つ頷いて。
「なるほど、このバトルで勝ち残った者がツナヨシ君をいただくという訳ですか。いいでしょう」
「相手にとって不足はないね。咬み殺す」
愉快でたまらないというように、ムクロはクスクスと笑って三叉槍を出現させ、一方のヒバリもまたトンファーを構えなおして婉然と微笑む。
「ちょっと待て!いつからそんなルールになったんだよっ!!」
勝手に優勝賞品にされたツナヨシは冗談ではない。
と、そこへバルコニーから窓を突き破ってさらなる新手の登場だ。
「う゛ぉぉぉぉい!ツナヨシ・・・ぶべっ!って、何しやがんだ!!このクソボスがぁ」
「るせぇ、のけ」
ガラス窓を切り裂いて颯爽と登場したスクアーロだったが、ザンザスに殴り飛ばされ床に衝突。そのスクアーロを踏み越えて、ザンザスを筆頭に侵入してくるのはお馴染みの面々、ボンゴレが誇る独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部たちである。
「ザンザス!マーモン、ベル、レヴィにルッスーリア!なんでお前たちが・・・」
いつもの真っ黒なコートも、今日だけは赤い。いや、微妙に赤黒い?
一体、その赤は何なんだ!?と、ツッコミたいが超直感が『聞くな』と囁く。
「任務完了の報告だよ。報酬ちゃんと振り込んでね、ツナヨシ」
「って、夜中に来んなよ!!んでもって、来るたび窓壊すなよっ!」
「ししし。なんだか、おもしろそうな事やってんじゃん。王子も混ざってあげるよ」
「不本意だが、ボスに最高のプレゼントを献上するためだ」
「あら~ん、了ちゃんったら、お部屋に居ないと思ったらこんなトコにいたのねぇ~お・持・ち・帰・り・決定だわ~」
「待ちな!てめーらにゃ、十代目は渡さねぇぜ」
「オレも譲る気はないのな」
「う゛ぉぉぉい、それはオレに勝ってから言うんだな」
「しょ、賞品は、ラ、ランボさんがもらうんだもんね」
「極限勝負だぁーーー!!」
「くふふ、ちょうどいい。目障りな連中も一緒に片づけてしまいましょう」
「全員まとめて咬み殺す」
「ふっ、ダメツナ。てめーも随分成長したもんだな。これだけの男を手玉にとるとは」
「これっぽちも、嬉しくねぇよ!!」
睨み合い、意気揚々と武器を手にする面々に、あっという間に部屋の殺気が膨れ上がる。
「は、掻っ消えろ!!」
そうしてザンザスの声を合図に、イタリアマフィア界屈指の男たちが激突した。
家庭教師に、守護者に、暗殺部隊をも巻き込んで、大乱闘の始まりだ。
あっという間に寝室はベッドを除いて壊滅状態。もう、心底泣きたい。
(・・・ああ、オレもう我が儘なんて言いません。贅沢も言いません)