聖夜に彼がほしいもの
「言ってることとやってることがそもそも違う!大切なものは紅茶缶に入れない!あと、それ、ほんとに、びっくりする……」
赤い箱の金の文字が霞んだ。
「でも、まあ」
普段と比べればもはや笑顔になっているとすら言えるクロードに無意識のうちに釘付けになっていた視線をここでようよう逸らす。空いているほうの手首で無理やり目をこすって、ひとつ深呼吸をしたあとで立ち上がった。
「ありがと」
期待したいんなら、勝手にすれば。
*
「これから、かぁ」
紅茶缶を枕元に割れ物を扱うのと同等の手付きで据え置いて、アロイスは弟を起こさないよう気をつけながらベッドの上に腰かけた。
いつかクロードが食べたがった魂をかたちにした、それ。
結局、缶を開けるのは待ってもらうことにした。いつ開けられるかもアロイスにはよく分かっていない、少なくとも明日ではない、おしおきだって済ませていないし、時間がかかるにきまっている。どこかでまだ痛む心の置き場を見つけなければならない。
覚えている。忘れられない。けれど、今の穏やかな日々から見れば確かにもうずいぶんと遠い話だった。
望んでいたかたちでなくともクロードはアロイスに答えたんだろう。これから、とあいつは言っていた。個人的に。これから。来年から。ああなんだかこちらが恥ずかしくなってくる。まるで告白、いや告白そのものだったことに今更のように気が付いて頬を赤くして、ごろんと寝そべって胸の鼓動を沈めようとする。
それでも少年は最後には伸ばした指でいとおしげに缶を撫で、目をつむり、やがて健やかな眠りが彼の上にも訪れたころ、窓の外ではしんしんと雪が降り積もりはじめていた。
作品名:聖夜に彼がほしいもの 作家名:しもてぃ