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メリークリスマス(伝勇伝・リズライ、レファ→ライ)

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どうか、幸福に



また、あの人は叶わぬ恋をしている。そう、リーグルワーズはため息を吐いた。

よくあることではあった。幼いころからそばにいる彼にとっては、よく見かける光景ではあった。レファルはよく、恋をする。
恋多き男というよ彼は怒るのだが。
その全ては本気のものだったのだ、と。彼は怒るのだけれど。
さて、何回目の恋になるのだろうか。
数えてはいないが、やはり多かったように思う。
少し前に好きと言っていたのはキファという赤髪の女子生徒のことだった。美人ではあるし、性格も悪くない。ただ、問題は、彼女の気持ちがレファルなどではなく、別のクラスメイトに向いているということだった。
レファルに望みなどなかった。
それでも、あのレファルだ。彼女を応援したり、身を引こうなどとは考えない。いつまでもキファを口説いていた。

――口説いていた、はずだったのだが。

「どうかしたのか、レファル」

最近、レファルの様子がおかしい。
相変わらずキファを口説いてはいるのだが、時折どこか遠くを見ている。単純なレファルらしくない、どこか憂いを帯びた表情で。
「別に」
そんな表情でそう返されても信じられるはずもない。
「キファ・ノールズがどうかしたのか?」
「いや、そうじゃない」
そうじゃないと、レファルは何だか悔しそうな表情で、首を振る。
それを見て、リーグルワーズはピンときてしまった。

この幼馴染はきっと、本気すぎる恋をしてしまったのだ。
だから、自分にも何も言えないのだと。

それは、少し寂しいような。
面白くないような。

どうせこの男の恋だ。観察していればすぐにわかるだろう。
そう思い、リーグルワーズは、レファルを観察することにした。

レファルは1組に向かった。それはまあ、いつも通りである。1組に顔を出すと、いつも通りにキファを口説くレファルがいた。
「俺のものになれよ」だかなんだか知らないが、彼のアプローチは馬鹿の一つ覚えみたいにただ押すだけで、代り映えがない。そんな告白にキファもため息を吐いたり聞き流したり。やはり彼に望みはない。
しかし、リーグルワーズの推理が正しければ(いや、正しいはずだ)彼の思い人は他に居るはずである。
それは、誰なのか。
そっとレファルの視線を追うが、やはりキファばかりを追っている。
考えすぎなのだろうか。
キファがちらりと、後を振り返る。そこにいたのは机に突っ伏すように眠っているライナ・リュートだ。彼女の想い人。ほんの少し、嫉妬でもしてくれればいいと思ったのだろうか。変わらず眠る彼に仕方がないという風にため息を吐いた。
その様子をじっとレファルが見ていたけれど、それは、ライナに嫉妬してのことだろう。



「明日はクリスマスイブだな」
恋人がそう呟いた。触角のように伸びたくせ毛だか寝癖だかにそっと手を伸ばしかけて、やめる。
「そう、ですね」
クリスマスイブという単語が彼から出てくるなんてなんだか少し、驚いた。
どうせいつものように眠そうに欠伸をするだけで別れる時間になると思ったのに。欠伸を噛み殺した彼は明日が終業式だということへの喜びは特に告げず、まずクリスマスイブという単語を口にした。
「どうすんの」
こちらを見て、そう言った。
どうすんの、とは……どういうことだろう。
答えに困っていると恋人は不満そうに目を細めた。それから、はあ、と。ため息を吐いて、何かを振り切るように首を振る。それからまた、欠伸。
「別に、いいけど」
明らかに不機嫌そうな声で呟く。
どうかしたのだろうかと彼の顔を覗き込むけれど、彼は何だか不機嫌なまま、早歩き。

「ライナ」

数歩先を歩いてしまう彼に追いついて、名前を呼ぶ。
驚いたように目を丸くして、こちらを振り返る彼。
「何、俺眠いんだけど」
「ええと……」
何かを言いたくて呼び止めたはずなのだけれど、何も思い浮かばない。ただ引き留めなければ恋人は不機嫌なままだっただろうから。明日もきっと不機嫌なままで、もしかしたら冬休みの間ずっと彼に会えなくなるかもしれなくて。
「デート、しませんか」
すぐそばを歩いたカップルが「デート」という単語を口にして、それがそのまま自分の口から再生される。

すると恋人の表情はたちまち不機嫌から元の表情に戻って。
むしろ今までよりずっと楽しそうに。それはもう、沢山昼寝しても良いと言われたようなご機嫌さで。
「明日、どこも混んでるだろ」
なんて、言う。
嬉しいくせに、そんなことを口にする。
どうやらリーグルワーズの放った言葉は正しかったらしい。すれ違った名も知らぬカップルに心の中で感謝する。
「じゃあ、一緒に昼寝でもしましょうか」
「いいね!」
デートなんて言っても、どこかに行きたいというわけではなかったらしい。結局終業式の後に二人でライナの家で昼寝するということになった。

(あ)

そういえば、と幼馴染のことを思い出す。
誰を好きになったかは知らないけれど、どうせまた片思いのままなのだろう。今度ばかりは本気なのかもしれないけれど、また望みのない片思いをしているのだろう。
打ち明けてくれるのなら手伝ってやろうかと思わなくもない。けれど彼はどうせ打ち明けないだろう。ならば自分も恋人が出来たことを報告するわけにはいかないなと考える。
本当はもう少し前からライナと付き合っているのだが、いつまでも独り身のレファルには悪い刺激になるかと隠していた。そもそも、別れろとか言いだしそうなのだ。あの男は。


叶わぬ恋に生きるのもいいけれど、叶った恋というものは素晴らしく甘美だ。その甘さをいつかあの幼馴染も知ることができるといいのだけれど、きっとそれはずいぶん先のことなのだろうなあと考える。

それでも、明日はクリスマスイブ。

幼馴染みの幸せを祈ってやるのも悪くないと思う。




―END―







レファルさんはライナが好きでキファを口説きながらもチラチラ見ちゃう、という妄想で書いたら何故かこうなりました。レファルさんがライナを好きだとはとてもわかりません。

リーズさんはライナに対して敬語にするかどうかすごく悩んだのですが、とりあえず今回は敬語に。色々間違ってそうで怖い……ハイテンションのままに書きあげたからホント怖いです。